『ウィンターズ・ボーン』 [上映中飲食禁止じゃ!]
監督・脚本:デブラ・ブラニック
製作・脚本:アン・ロッセリーニ
製作:アリックス・マディガン=ヨーキン
ケイト・ディーン
原作:ダニエル・ウッドエル
撮影:マイケル・マクドノー
音楽:ディコン・ハインクリフェ
キャスト:ジェニファー・ローレンス
ジョン・ホークス デイル・デッキー
ギャレット・ディラハント
ローレン・スウィートサー
シェレル・リー テイト・テイラー
ケヴィン・プレズナーン
アカデミー賞4部門ノミネート作品。
抑揚の無い淡々とした展開の中、後方席のオッサンの寝息を聞きながらであったが、アメリカ貧困地区の現実とひとりのひたむきな少女が大人に生まれ変わる姿をじっくりと味わった...静かな感動が押し寄せる佳作である。
舞台のミズーリ州オザークの山村は、アイルランド系移民が開拓し定住した地域で、現在では最貧困地域にあたり、一般社会からは隔離された地位にあるという。ゆえに、そこに住む多くの者は、犯罪や麻薬に手を染めなければ生き抜けない環境に追い込まれている。日本で云えば、一昔前の釜ヶ崎(大阪)山谷(東京)寿町(横浜)の所謂「ドヤ街」なのだろうが、この山村は都心から遠く離れている点と、住民がルーツを同じくした民族で構成されている点が大きく異なる。
そんな予備知識を持ってこの作品に臨むと、更に「リアルに重〜い」映画となる。
村の貧困さをサラリと映し出すカメラワークが、かえってドキュメンタル・フィルムを見せられているような現実感を呼び起こし、終始日の射さないダークな映像と共に、観る者の気持ちもどんよりと曇り空にさせる。中盤からはサスペンス映画の香りも若干匂わすが、一貫してのリアル感に変わりはない。
その貧しい村の中で、父親の失踪により生活の糧を失った高校生のリーは、幼い兄弟と精神病の母を支えるべく、大人の世界に入り込まざるを得なくなるのである。 家屋と家族を守り抜く為の行方不明の父親探しが、いつしか自分の村のダークサイドを知り始め、驚愕の真相解明に及んで彼女は大いなる「大人の決断」を迫られる事となるのであった・・・
リー役のジェニファー・ローレンスのオスカーノミネート当然の真摯かつ自然な演技が光る。
さほどの美形には見えなかったが、なにげに足が長く(常にGパン姿だが)スタイル良さげな上に、時折魅せるショットに「はっ」とする美しさを振りまく
今作では垢抜けない少女役だが、素顔は洒落たブロンド美人で、化粧・服装によってどんな役柄もこなせそうなタイプだ。
健気な田舎娘だが、持ち前の強い意思により多くの困難や生命の危機を乗り越えて真実に向かっていく。
そんな彼女を、当初は邪険にしながらも徐々に心を通わせ、最後には強い味方となった麻薬中毒の叔父役・ジョン・ホークス。
彼のいぶし銀の演技なくしては、この作品の重厚さはあり得なかっただろう。こちらも素顔はナイスガイだが、作中ではどうしようもないジャンキーを演じつつ、姪っ子を守る男気をサラリと魅せた。
また、村の裏社会に生きる連中がすべて「それらしい」役者陣で、特にデイル・ディッキーの怪演は鬼気迫る。
作品全体を通して、寒々としたトーンが貫かれており、当然の事ながらハッピー・エンドではない。
されど、バッド・エンドでもないのが、この映画の味わい深いところなのだ。
エンド・クレジットでの末妹・アシュリーの穢れなき姿をまじまじと見つめていると、この作品が訴えたかったものが朧げながら感じられてきた。
「血」の成せる人間の宿業。
家族・親戚・一族・民族...血の繋がりがなんと愛おしく、恐ろしく、強きことを...
2度目、3度目の観賞ができたら、更にこの作品の味わいが深まりそうな、ちょっと手強い映画だった。
付け加えて、挿入されるカントリー・ミュージックが乾いたアメリカの闇と対比されて、胸に沁みる