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『別れ』

 
「言葉の矢 はなてばかえす 草矢かな』
 
自らが詠んだ俳句を短冊に書き、母は父の眠る棺に優しく置いた。
老夫婦のいじらしいやり取りを描いた詩だ。
 
私の東京勤務と時を同じくして入院した父は、見る見るうちに痩せ細り、あっという間に逝ってしまった。
意気地なしのくせに延命治療を拒み続けたのは、家族に介護の負担をかけさせたくなかったに違いない。
最後の最後まで、家族にいっぱいの愛を残して、我々が病院に駆けつける前に、閑かに息を引き取った。
 
慌ただしく父の葬儀を終えて四日後...義理の母が自宅で急逝した。
 
書道家であり、私生活も仕事にも常に厳格だった義母は、女々しさとは無縁のカッコいい女性だった。
父を見送ってくれた時は普段と変わらぬ様子だった。だが、同居する義理の姉夫婦が風呂場を覗いた時には、彼女は浴槽の中で息絶えていた。あまりにも唐突で、あっけない最期だった。
 
一番病弱であった母が、結局独り取り残されるような形となったしまった。
父の葬儀の後、心身とも疲れ果てながらも、義母の棺にも句を添える母。
書家の義母の人柄を讃えた詩だ。
 
「人品の 残る筆跡(ふであと) 沙羅の花」
 
 
大事な家族との別れから1ヶ月近く経過した。
いつも近くにいた人間を亡くした喪失感を味わいつつ、残された家族の時間はいつも通り流れるのだ。
 
私は新しい勤務先で仕事に忙殺され、妻は家事とパートでフル回転。一人暮らしを始めた新入社員の長男は、週末には腹をすかせて実家にやってくる。未だに内定を取れない就活中の長女は、今日も会社訪問だ。母もようやく、父の遺品整理から開放されたようだ。
 
今は、大事な人との別れを自然と受け入れて生活している家族を誇りに思える。
そして、こんな家族を恵んでくれた父と義母に感謝の念を強くする今日この頃。
 
小生も落ち込んでいた訳ではないのだが、写真も音楽も映画も愉しむ気分にはなれず、ただただ仕事に没頭する事にあえて甘えていたようだった。先週、スポーツジムで久しぶりに汗を流し、ぶらりと当日券を買いピアノコンサートに行って来た。無理せず、今まで通り自分と家族の生活を楽しんでいこう。
 
ブログも再稼働です^^ 改めてよろしくお願いします!
 
 

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怪しい探麺隊

謹んでお悔やみ申し上げます。
by 怪しい探麺隊 (2015-07-04 10:18) 

DEBDYLAN

お悔やみ申し上げます。

by DEBDYLAN (2015-07-04 17:06) 

sig

悲しいことが二度も続いて、大変でしたね。
特にお父様の姿勢には頭が下がります。また、皆様の平常心にも。
家庭が日常に戻りつつあると伺いましたが、何よりです。
by sig (2015-07-05 18:12) 

ゆうみ

謹んでお悔やみ申し上げます。
by ゆうみ (2015-07-06 14:38) 

non_0101

大変な時を過ごされたのですね。
無理をしないことが一番です。
今は時が過ぎるままにお過ごし下さいませ。
ご冥福をお祈りいたします。
by non_0101 (2015-07-09 00:13) 

Labyrinth

何とお声掛けすればよいものか?と、書いては消し・・・の繰り返し。
ご多忙ばかりでない何かがあるのかな?と気掛かりでしたが・・・。
改めまして
ご愁傷さまでございました。心よりお悔み申し上げます。
・・・お父様は待っていらしたんだなぁ と思うと切なくなります。
つむじかぜ さんの中で解決済みなのに?蒸し返して申し訳ないですが
お母様がお力落としのなきよう祈るばかりです。
佳句を載せてくださり、ありがとうございました。
こちらこそ、宜しくお願い致します。
by Labyrinth (2015-07-12 01:47) 

(。・_・。)2k

謹んでお悔やみ申し上げます
時間ができたら撮りに行きましょう

by (。・_・。)2k (2015-07-14 02:14) 

ぷーちゃん

謹んでお悔やみ申し上げます
by ぷーちゃん (2015-07-26 13:34) 

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