『トランス』&『危険なプロット』 [上映中飲食禁止じゃ!]
監督:ダニー・ボイル
音楽:リック・スミス
撮影:アンソニー・ドッド・マントル
キャスト:ジェームズ・マカヴォイ
ロザリオ・ドーソン
ヴァンサン・カッセル
アート競売人のサイモン(ジェームズ・マカヴォイ)はギャング一味と協力し、オークション会場から40億円の名画を盗み出すことに成功する。しかし計画外
の動きを見せた彼はギャングのリーダー(ヴァンサン・カッセル)に暴行され、それが原因で絵画の隠し場所の記憶をなくしてしまう。リーダーは絵画のありか
を聞き出すため、催眠療法士(ロザリオ・ドーソン)を雇うものの……。(シネマトゥデイより)
「スラムドック$ミリオネア」「127時間」に続くダニー・ボイル監督の挑戦は、少々エロチックなサイコスリラー仕立てである。
常に観客を驚かせる作品は変幻自在、同じテーマは存在しない。今作は、観る者の頭脳を混乱させ、パニックに陥れる仕掛けが満載されたクライム・ムービー。一度観ただけでは納得できないような、こんな観客泣かせの複雑怪奇な作品も、小生は結構お好みなのである
全編を通して特に、サイモンの記憶を辿る場面でのダークかつ不気味な映像は、『28日後...』(2002年)の雰囲気に近いかもしれない。ダニー・ボイルとのコンビが板に着いた感じのアンソニー・ドッド・マントルのカメラが、虚構と現実の狭間を縦横無尽に往来する。人物の表情から内面までえぐる様な粘着質なカメラ・アイが実に秀逸だ。
『つぐない』のナイスガイ・ジェームズ・マカヴォイが記憶を失くしたオークションの競売人・サイモン役を好演。
競売中に強奪されたゴヤの「魔女達の飛翔」の行方の鍵を握る彼が、ギャング一味の片棒を担がされた小心者なのか、はたまたとんでもない悪党なのか、全く解らない巧みな演技と、それを引き立たせる演出が見事だった。
そのサイモンの記憶を蘇らす為、ギャング団に取りこめられた妖艶な精神科医・エリザベスにロザリオ・ドーソン。
...私のタイプではないのだが、美人さんです。とにかくナイス・ボディであります。あまりに迫力あり過ぎて、大和魂では勝ち目無しの女性です(15禁ですので、その辺は十分堪能できます)しかし、濡れ場でのこんな美しいカットは、エロを超越して芸術の域でもある。
このエリザベスが、ギャング団に脅されながら彼らに協力をするのだが、徐々に主客逆転。真実の究明は、彼女の腕に委ねられ、男どもは彼女の僕のように操られて行く。しかし、彼女の動機も目的も最後まで謎に包まれたままだ。
小生が興味深く見つめたのは、ギャングの首領役のヴァンサン・カッセル。
冷静沈着・屈強のワルが、倒錯の世界に墜ち、色欲に溺れ、情けない男に成り下がる様を、まさに「男らしく」演じた。
驚愕のエンディングを、有り体と云ってしまえばそれまでなのだが、そこに行き着くまでの展開が、非常にめまぐるしくドラマチックに積み上げられている。目を伏せる暇を与えない多くの伏線と、小気味好いテンポ、美しき映像。
真面目に観れば観る程疲れるが、真面目に観ないと訳が解らぬダニー・ボイルの洒落た贈り物だ
◎おまけ
今作中で、強奪された絵画は、実在のゴヤの作品である。
『魔女達の飛翔』(1797~8年)
しかし、実際には盗難された訳では無く、実物はスペインのプラド美術館で展示されている。
私はゴヤの作品が無性に好きである。人物の本質まで露にさせる壮絶なまでの筆力。陰影に富んだ色彩の中に描き込む、作者の止めどもない怒りと果てしない優しさ。時折シニカルなジョークを少々滲ませる洒落たセンスなども、同時代の画家の中では異彩を放つ。
個人的には、晩年の若干明るい色調を使用した絵画に、腐敗した社会の中で生き永らえた末に掴んだ「悟り」が感じられて、下の作品などは、忘れられぬ1枚である。
ボルドーのミルク売りの少女(1825~7年)
さて、もう一本もサイコスリラー系ではあるが、上記作とは好対称の作品だ。
ダニー・ボイル作を「脳がやられる」とするならば、今作は「心臓が突かれる」感じなのである。
原作:アン・マヨルガ
撮影:ジェローム・アルメラ
キャスト:
ファブリス・ルキーニ
クリスティン・スコット・トーマス
エマニュエル・セニエ
エルンスト・ウンハウワ
作文の添削ばかりで刺激のない毎日に嫌気が差している高校の国語教師ジェルマン(ファブリス・ルキーニ)は、クロード(エルンスト・ウンハウアー)という生徒が書いた同級生とその家族を皮肉った文章に心を奪われる。その秘めた文才と人間観察能力の高さに感嘆したジェルマンは、彼に小説の書き方を指南する。かつて諦めた作家になる夢を託すようにして熱心に指導するジェルマンだが、クロードの人間観察は次第に過激さを増すように。そして、その果てにジェルマンを思わぬ事態に引きずり込んでいく。(シネマトゥデイより)
不思議な感覚に捕われる作品である。
サイコスリラーに分類させられるであろうが、血の一滴も流れません。バイオレンス皆無。
されど、妙な不安感と一抹の嫌悪感がつきまとい、常に心臓の鼓動はハイレベル。
異彩を放つ原作と、そのエッセンスを抽出した秀逸な脚本に拠る処大なのであろうが、更に無名のフランス俳優陣が、この「非日常の世界」をきわめて「日常的」に演じる事により、観る者の静かな恐怖心を増幅させるのである。
謎の高校生・クロード(エルンスト・ウンハウワ)の個性抜きでは語れない。
この数学の優等生が持つ中性的な美しさに、彼と関わった者達はすべて魔法をかけられたように、正気を失っていく。
無邪気な悪魔の「純真さ」をもって綴られる彼の小説が書き進むにつれ、ふたつの家族の調和が崩壊されていく過程は、半端なSF作品より遥かに身が縮こまり、スクリーンから目が離せなくなる。
クロードの国語的才能に惚れ込み、彼に小説の書き方を個人教授している間に、その小説の虜になってしまう教師・ジェルマンと妻。
クロードの実際の小説のモチーフとなる友人ラファとその家族。
クロードは、ラファの母親・エステルに強い母性と恋情を抱き、彼の小説は現実と空想の狭間で揺れ動きながら、エスカレートしていき、彼の行動は禁断の世界に踏み込まんとする。そしてクロードの小説を読み進むにつれ、堅物な教師ジェルマンは、ついに道徳観をも封印し、めくる頁の手を止める事ができなくなっていく...
それにしても、エステル役・エマニュエル・セニエの熟れた色気がなんとも香しい。鑑賞中は全く気付かなかったが、ロマン・ポランスキー監督・ハリソン・フォード主演『フランテック(1988年)』にヒロイン役で出演していた。
既に47歳のようだが、いいオンナの魅力は基本的には変わらないのであ〜る
中盤から後半にかけての一気の展開に目が離せなくなり、意外なエンディングに衝撃を受けながらも、何故か微笑んでしまう。これは、夢中になった小説を途中で止められなくなって、朝まで読み更けてしまった「あの感じ」に似ている。
他に類を見ない設定と洒落た演出、自然な演技。家族・夫婦の在り方を間接的に訴えつつも、体裁はまさしく文学的サイコスリラー。異色のフランス映画に早まる鼓動を抑える事はできなかった
ロマン・ポランスキー監督作品でハリソン・フォード主演の
フランテックは大好きな映画の一つ。
グレースジョーンズの”nightclub”が
エキゾチックでええんよ~。(^O^)
by ぷーちゃん (2013-11-12 22:40)
Wow♪ 監督といい女優さんといい
2作とも絶対見逃せない感じですね~(^^; 大好物です♪
エマニュエル・セニエは『ナインスゲート』も格好良かったですけどね~
“熟れた色気” 見たーーーい♪
・・・のは山々ですけどっ やはりこれもDVD鑑賞かも? orz
by Labyrinth (2013-11-12 22:43)
>グレイス・ジョーンズですか!
「フランテック」の挿入歌にあったんですね。
もう一度、DVDを観なければ...
by つむじかぜ (2013-11-13 00:41)
> Labyrinth 様
ようやく「熟れた色気」が判る年齢になって参りました^^;
by つむじかぜ (2013-11-13 00:44)
こんばんは。
2つ目の映画がフランソワ・オゾンなので、面白そうと思っています。
主人公の少年(?)すごい美少年ですね。
by coco030705 (2013-11-13 21:27)
> coco030705 様
美少年趣味はない小生でも、ドキッとする場面が多々ありました^^;
by つむじかぜ (2013-11-15 01:14)
拙ブログへのコメントありがとうございます。
なにがあろうとデ・ニーロは「神」です!
RUKO
by 末尾ルコ(アルベール) (2013-11-15 08:37)
> 末尾ルコ(アルベール)様
現役の俳優では、彼は別格の存在です! まさしく「God of Play」
by つむじかぜ (2013-11-17 01:53)