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『桃(タオ)さんのしあわせ』 [上映中飲食禁止じゃ!]

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監督:アン・ホイ
脚本:スーザン・チャン
原作:ロジャー・リー
撮影:リー・ルクアウァイ
 
キャスト:ディニー・イップ アンディ・ラウ
チン・ハイルー チョン・プイ サモ・ハン・キンポー
ワン・フーリー アンソニー・ウォン ツイ・ハーク
 
裕福な家に生まれ、現在は映画プロデューサーとして忙しく働くロジャー(アンディ・ラウ)の家には、60年もの間、勤めているメイドの桃さん(ディニー・イップ)がいた。しかし、ある日、その桃さんが脳卒中で倒れてしまう。その時からロジャーと桃さんの関係と絆に少しずつ変化が生じていき……。
 
いまだからこそ中国映画。
 
香港映画と云えば、荒唐無稽なアクション作品がお得意のイメージだったが、こんな作品を見せられたら認識を改めなければならない。
 
ひとりの名も無き女性の一生を、ごく自然に、しかし、溢れんばかりの愛情を持って描かれた珠玉の逸品である[ぴかぴか(新しい)]
 
愛ある映画のモチーフとして、男女のラブストーリーから固い絆で結ばれた家族の物語、動物愛から男の友情に至るまで古今東西、多くのパターンが用いられ、そこから名作が誕生している。
 
今作は、「主人と家政婦」という「主従の関係」に光を当てた他に例を見ない形である。
歴史モノやヒーロー作品には、「君主」を命を賭けて守り抜く「家来」という「絶対的服従」の姿は、散見される。しかし、この一風変わった主従関係の男女が紡ぎ合う尊い人間愛に、胸が「ホンワカ」と温められ、ついには身体中の血液が涙に変わって行くような心持ちに陥った。
 
少女の頃から60年間、裕福な家庭のメイドとして働き続けた桃(タオ)さんが、今、面倒を見ているのが、家族の息子で唯一の独り身であるロジャー、映画プロデューサーとして活躍する独身貴族だ。当然、タオさんは彼を生まれた頃から知っているのだ。
 
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しかし、料理、炊事、洗濯...あらゆる家事を軽々こなすスーパー家政婦・タオさんが、突然、脳卒中で倒れる。
一命を取り留めたものの、ロジャーの迷惑にならない為、タオさんは、自らの意志で障害を抱えたまま擁護老人ホームに入ってしまう。 
ここから、主客転倒にはならないが、立場逆転。ロジャーは、親でもないタオさんに対し、必死の介護を務めることとなる。それは世間体を気にした行動ではなく、義務感に駆られたものでもない。まるで老いた母親を慈しむような自然な姿。徐々にタオさんの体調は回復し、老人ホームではマドンナ的存在となり、ロジャーとはかつての主従とは違う暖かい関係に変化していく。
 
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ヴェネチア映画祭主演女優賞受賞も納得のディニー・イップの凄まじき演技。
「凄まじい」とは云っても、鬼気迫る怪演とは違う。元気なお手伝いさんから面倒を見られる立場に回った時の戸惑いと、かつてない生活を垣間見た幸福感を、ものの見事に表現した。この自然な演技が鳥肌モノなのだ。
一方のノーギャラ出演のアンディ・ラウ。香港任侠映画には欠かせない伊達男が、今役のロジャーでは、永年仕えたメイドへの感情の変化を、親からの愛情に漸く気付いた子供の如く、ごく自然に抑えた演技で魅せてくれた。
 
脇役陣は、あくまでも二人を際立たせる演技に徹しているが、みな魅力的。ロジャーの実母役のワン・フーリーは、しっくりこない母子の関係を巧く演じ、老人ホーム主任役のチン・ハイルーは意外と美人さんの上に、仕事に徹する真摯な女性の姿が光っていた。ロジャーの悪友達、兄弟、老人ホームの仲間達...みんなが自然な空気感に在った。
 
回復の道を歩みながら、小さな幸福感に浸っていたタオさんに、また悲劇が訪れる・・・2度目の脳卒中だ。
残されたタオさんの時間が少ないと知らされたロジャーの行動は如何に・・・
 
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言葉で多く語るべきではないかもしれない。
 
寂しい身寄りの無い家政婦の人生の黄昏を描いたもので、表情上は寂しく侘しい物語なのだが、エンドロール時には何とも云えない幸福感と充実感が身体中を駆け巡る。
 
どんな境遇の人にも讃えられる人生がある事を。そこには支え合う愛情が必ず在る事を。
 
映像も音楽も秀逸です[exclamation×2]
 

 
尖閣諸島問題から中国国内での排日デモを巡り、中国人の道徳感を問う声も多い。
先週の「ガイアの夜明け」で、破壊略奪の被害にあった『平和堂』の再建が取り上げられていた。
そこに働く中国人労働者は、同胞の暴挙に憤り、涙を流しながら日本人経営者と共に店舗の改修に全力を尽くす姿が伝えられ、小生は少々感動してしまったのだが。
どんな国にも悪人はいるもので、レベルの低い愚行ばかり報道するニュースを鵜呑みにしてしまう危険を感じざる得なかった。
こんな素晴しい映画を作る隣国と話し合えないはずはないのだから・・・とは云っても香港映画ではあるけれど。
 

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non_0101

こんにちは。
気になっている作品です。やっぱり良さそうですね~
単館なので、なかなか足が伸びないのですけど、
機会が合ったらチャレンジしてみたいです☆
by non_0101 (2012-11-11 11:03) 

つむじかぜ

>non_0101様

あまり話題に上がらない作品ですが、人生の在り方を優しく描いた力作です。
とにかくディニー・イップの演技は鳥肌モノです。

by つむじかぜ (2012-11-13 00:08) 

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