『捜査官X』&『ル・アーヴルの靴みがき』 [上映中飲食禁止じゃ!]
2作品とも上映館の限られた小品。しかしながら、個性の異なる好対称な作品ではあるが、「映画の面白さ」を存分に堪能させてもらった。
監督・製作:ピーター・チャン
アクション監督:ドニー・イェン
脚本:オーブリー・ラム
撮影:ジェイク・ボロック ライ・ファイ
美術:イー・チュンマン
キャスト:ドニー・イェン 金城武 タン・ウェイ
ジミー・ウォング クララ・ウェイ リー・シャオラン
山奥ののどかな村で強盗事件が発生し、犯人2人が死体で発見される。製紙職人のリウの正当防衛によって死亡したと事件は解決するが、捜査官のシュウはリウに凶悪犯が倒せるはずがないと推理。シュウは事件の真相を追ううちにリウの過去や衝撃の真実を知る。(ぴあ映画生活より)
中国映画・・・とはいえ、今やアジアを代表する俳優となった金城武君が準主役なので、会話が中国語であっても邦画を観るような親近感を感じる作品である。
中国語を完璧に操り熱演の捜査官役なのだが、見慣れた日本人顔なので、私にはどうしても「金田一耕助シリーズ中国ロケ編」に見えてしまうのだ。
しかし、内容は「金曜サスペンス劇場」のような 凡庸な作りではなく、映像・演出が際立つ極上のサスペンスに仕上がっている。
「カメラワーク」が抜群 20世紀初頭の中国の片田舎を見事に再現。雲南省の自然の美しさと貧しくても活気溢れる町の様子が違和感なく描かれる。特にジンシー(ドニー・イェン)一家が暮らすあばら家の佇まいの何と微笑ましいこと 人物への光線の当て方も憎らしい位上手い。そして一転、アクションシーンとなれば、スローモーションとCGを巧妙に取り込みながら、手に汗握る香港映画伝統の殺陣を披露する。
村の善良な職人が実は昔悪事に手を染めた武術の達人であったという、香港映画にありがちなパターンなのだが、この職人・ドニー・イェンの正体を暴く金田一探偵いや金城捜査官の自分の身を削りながら一歩一歩真実に迫る姿が、非常にリアル。ドニー、金城の相手の腹の中を探り合う、もの言わぬ演技は凄みがあった。
そして紅一点、ジンシーの妻アユー役のタン・ウェイが可愛いのだ(当然、ブロンドではないのだが)
童顔なのでかよわい幼妻にみえるが、幸せな生活を必死に守り抜こうと気丈に振る舞う女性を好演
素顔は、長身172センチのモデル系美女だ
形式はサスペンスだが、西夏族滅亡の歴史や官僚の腐敗、そして正義の為に暴いた真実が平和を砕くという不条理な世界までさりげなく織り込んだ、数或る中国アクション映画の中でも異色の佳作であると思う
もう一本
監督・脚本:アキ・カウリスマキ
製作:ファビエンヌ・ヴォニエ レインハード・ブライティング
撮影:ティモ・サルミネン
美術:ウオゥター・ズーン
キャスト:アンドレ・ウィルムス
カティ・オウティネン
ジャン=ピエールダルッサン ブロンダン・ミゲル
エリナ・サロ イヴリナ・ディディ
ゴック・ユン・グエン フランソワ・モニエ
ロベルト・ピアッツァ
北フランス、ノルマンディー地方の港町ル・アーヴル。かつてパリでボヘミアンな生活を送っていた元芸術家のマルセル・マルクス(アンドレ・ウィルム)は、ここで靴磨きを生業にしている。駅や高級革靴店の前で仕事をしているが、日々の稼ぎはわずか。だが、家には自慢の女房アルレッティ(カティ・オウティネン)と、愛犬ライカが帰りを待っていてくれる。決して豊かではないが、毎晩呑みに行きマルセルはそんな暮らしに幸せを感じていた。ある日、港にアフリカ・ガボンからの不法難民が乗ったコンテナが漂着する。警察の検挙をすり抜けた一人の少年イドリッサ(フロンダン・ミゲル)は、港でマルクスと偶然に出会う。イドリッサの母親がいるロンドンに送り出してやるため、密航費を工面しようとマルセルは奮闘するが、時を同じくして、妻アルレッティは体調の不調をうったえ入院、医師から不治の病を宣告される。(goo映画)
温もりとホロ苦さ双方を味わせてくれる不思議な口当たりの絶品ワインのような作品だ。
登場人物はすべて貧しき善人ばかりなのである。
アフリカから不法入国した黒人少年を匿った靴磨きの初老の男が、近所の仲間達の力を借りながら、警察の目をかいくぐって密航費を稼ぎ、無事少年をロンドンに送り出す〜という心温まるストーリーののだが・・・
フランス港町の最下層の人々が平凡な日々をいかに楽しく暮らしているかが、ごく自然に描かれる。
靴磨き・マルセルは、稼ぎが少なくても愛妻との夕飯の後、毎晩酒場に繰り出す。毎夜1杯のワインを愉しむ男の姿が優しく、美しい。その酒場に集る人々、パン屋のおかみ、八百屋の夫婦、みな心が裕福で美しい。
そんな彼らが手を携えて黒人少年の密航を助ける姿を、ウイット溢れる描写で表現。個性豊かな登場人物に命を吹き込むのは、芸達者なフランス俳優陣。賞賛に値する演技。
そして私が注目したのは、実にアートなカットである。そのまま絵画になるような構図・光と影・配色・の凄さ。何気ないシーンの中でも「ゾクッ」とする『絵』が挟み込まれる。こんな写真が自分でも撮れたら幸せ
他にも少年とアルレッティが病室で握手をするシーンには痺れた
見事、少年を密航船に送り込み拍手喝采のハッピーエンドと思いきや、更に奇跡のもう一つのハッピーエンドがラストを飾る「幸せ二重奏」の構造。
しかし、普段ならエンド・クレジット時に味わうはずの幸福感が何か晴れ晴れとしない複雑な心持ちに変わっているという摩訶不思議な感触を味わい、私自身が戸惑った。
森村泰昌氏が日経新聞の映画レビューにも同様な事を書かれており、ハッとしたのであるが、この作品はアキ・カウリスマキ監督が確信犯的に破調を描き、世界から善意がかき消されようとしている状況を訴えた過激作ではなかろうか?
フランスの移民排斥運動や警察機構の腐敗を暗に匂わせつつ、善人達の有り得ないハッピー・ストーリーを健気なまでに描く事により、現代の危機に光を当てた問題作だと思う。へそ曲がりな私だから感じたのかもしれないが・・・
そんなちょっと悩ましい味わい深い映画でした
こんにちは。
2作品とも独特の世界観を描いている作品でしたね。
登場人物たちは一筋縄では行かないところが面白かったです☆
by non_0101 (2012-05-20 20:37)
>non_0101様
どちらも上映館の限られた小品ですが、魅力溢れるキャストと映像美に、映画の
素晴しさを再認識です!
by つむじかぜ (2012-05-25 03:23)