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『悪童日記』 [上映中飲食禁止じゃ!]

[どんっ(衝撃)]戦慄を覚える大傑作[どんっ(衝撃)]
 
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監督・脚本:ヤーノシュ・ハース
原作:アゴタ・クリストフ
撮影:クリスティアン・ベルガー
 
キャスト
アンドラーシュ・ジェーマント ラースロー・ジェーマント
ピロシュカ・モルナール ウルリュヒ・トムセン
 
戦時下、まだあどけない双子の兄弟が農園に疎開する。そこで彼らは祖母にこき使われる過酷な日々に耐え、日記を書く。そして兄弟は万引きする少女、負傷した兵士、ナチス・ドイツの将校らと出会い、母親の言いつけを守って自らの肉体と精神を鍛えていく。(ぴあ映画生活より) 
 
 
『純粋ほど残酷なものは無い...そして残酷ほど美しいものも無い』
 
双子の少年の穏やかな寝息から始まる物語に、徐々に息苦しさを覚え、訳の解らぬ不安感に苛まれていく。その不安の正体が、穢れ無き者への畏れと汚れきった大人達の羞恥心に在る事を、観客は気づいて行くのである...
 
大戦末期のナチス・ドイツ管理下の某国(ハンガリーと思われる)。
片田舎の母親の実家に疎開してきた双子の兄弟は、眉目麗しい瓜二つの美少年である。
 
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輝きに満ちた4つの瞳は、嘘や愚行で凝り固まった大人達の本質を見透かすように鋭く、正視できないほどの純粋さには、我々は恥じらいと畏れをも抱いてしまう。
 
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この双子の無名の子役を主人公に抜擢した事で、空恐ろしい物語に圧倒的な説得力とリアリティをもたらしたほど、二人の演技と存在感は強烈であった。そのカリスマ的チカラは、とりもなおさず、双生児だけが持つ一種の生命の驚異がもたらす不気味さに起因する。仮に、主人公が普通の兄弟であったなら、ここまでの映像には辿り着けなかったであろう。
 
幸せだった都会での家族生活から一転して、疎開先での兄弟と祖母の3人の共同生活が始まる。
 
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実の娘を「メス犬」と呼び、子供達を血を分けた孫として一片の慈しみの欠片も見せない祖母は、醜く肥えた容姿と共々、近所の人々から「魔女」と呼ばれていた。(ピロシュカ・モルナール・・・凄い迫力[どんっ(衝撃)]
 
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ジブリの湯婆場(ゆばーば)か、狂ったマツコ・デラックスという感の「魔女」のイジメと過酷な労働に耐えながら、二人は次第に「生きる力」を身につけていく。
別れた母が残した「絶対に生き延びて...」の言葉を胸に、父から渡された日記に、日々の出来事を書き綴っていく形でストーリーは進んでいく。ナレーションは双子の複数一人称「僕ら」であり、二人が一心同体であるのを推し量らせ、ふたりの名前は最後まで明かされる事は無い。
 
兄弟は「生き延びる術」を純粋な子供心で必死に考え、自分達を精神と肉体の鍛錬へと駆り立てていく...
母との約束を守るために。
延々と二人で殴り合い、「痛み」に耐える練習...
食べ物があるのに4日間絶食し、「餓え」に耐える練習...
空襲時に耳と目を塞ぎ歩き回る、「恐怖」に耐える練習...
 
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観客は、当初は健気な少年達に同情心を抱くようなる。 だが、その鍛錬が次第に過激になっていき...
昆虫採集がいつしか可愛がっていた鶏をあえて殺す...好きな者を殺めても胸を痛めない能力を身につけ、両親の写真や手紙を燃やし、愛する者を忘れ去る努力を必死でするのである。更に、祖母に家にある唯一の書物「聖書」から読み書きを覚え、彼らなりの「倫理観」を構築していくのである。
 
汝、殺す事なかれ、って言うけど、みんな殺してる。」 
人間の本性が露になる戦時下において、虚飾に満ちた大人の世界を目の当たりにした少年達は、日々逞しくかつ狡猾に生き残る術の実践を続けていく。戦火は辺境の村にも及び始め、弱き者達は声も無く命の灯火を消して行く。
 
見知らぬ街で多くの人間と出会い、また、美少年ゆえに彼らを愛でる人々も少なくなかった。盗癖のある兎唇の少女、同性愛趣味のナチス将校、司祭館で働く美しきブロンド女性...そして二人は、彼らの道徳心に乗っ取って「敵」を嗅ぎ分け対峙していくのだ。
 
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心優しいお姉さんが、ユダヤ人狩りに協力した事を知るや否や、彼らがとった行動は衝撃的であった[がく~(落胆した顔)]
 
終戦直前、漸く息子達を迎えに母親が訪れて来る。忘れ去ったはずの想いが沸き上がるが、彼女を送って来た車には父親ではない男性が待ち、母親の手に赤子が抱えられていた。二人は母親を拒絶し、祖母と残る決断する刹那、爆撃で消える母と名も知らぬ弟の姿。・・・二人は更に逞しくなっていくのである。
 
終盤には、捕虜に捕われ人が変わってしまった父親との再会、心の交流が成った意地悪祖母との別れにも、鋼の精神力を見せつける双子の姿が強烈に映し出されていく。
ラストシーンで、二人が選んだ最期の試練には、背筋が凍りながらも胸が熱くなる今まで体験した事の無い感動に捉えられてしまう。
 
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悲惨な戦争の現実を訴え、人間の本質を問う作品は多い。
今作では、人の善悪の基準などは主観的なものに過ぎない事を、主人公の視線を通して突きつけてくる。
幼気な少年が徐々に人間離れした精神力を身に付けていく様は、感情を失い狂気を纏った悪魔の子供達に見えるが、実は神から使わされた天使なのかもしれない。穢れた人間に正義の鉄槌を下す冷血無垢なエンジェルが、なんと美しく神々しい事か。
 
ジェーマント兄弟を発掘したヤノーシュ監督の審美眼は、映画化不可能と云われた原作のエッセンスを全編に亘っても鮮やかに染み込ませた。終始、不安感を掻き立てる挿入音楽と、リアリティ溢れる映像が、無垢なふたつの魂の成長を、残酷なまでに冷徹にしかも美しくスクリーンに描ききった傑作中の傑作である。
 
重苦しい作品は、普通ならやるせなさが募るはずなのだが、本作の圧倒的な映像の力には、ただ打ちのめされて言葉も無い。双子の少年のこれからも続くであろう試練に、「幸あらん事を」と願うのみである。
 
 
 
 

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JUNKO

詳しく解説いただくので助かります。
by JUNKO (2014-10-31 19:30) 

つむじかぜ

全く人気の無い作品ですが、多くの人々に観て頂きたい。
by つむじかぜ (2014-11-05 00:24) 

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