『オンリー・ゴッド』

 

 

監督・脚本：ニコラス・ウィンディング・レフン

 

 CAST

ライアン・ゴズリング

クリスティン・スコット・トーマス

ヴィタヤ・パンスリンガム

 

 

米国を追われタイのバンコクで麻薬の密売に手を染める青年ジュリアン。同じくタイにいた兄が殺され、米国で犯罪組織を牛耳る母は彼に復讐を命じる。さっそく仲間とともに動き出したジュリアンだったが、そんな彼の前に裏社会に関わる元警官が立ちはだかり……。（ぴあ映画生活より）

 

衝撃を通り過ぎて呆然あるいは？？？か

「ドライブ」「プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ」の、ライアンの迸る疾走感が伴う胸躍るクライム・アクション・ムービーを期待すると痛い目に会う、アベック鑑賞厳禁の作品だ。

そして私は、難解さを通り越し決して完成できないジグソーパズルに翻弄される自分を見て愉しんでいるもう一人の自分に気づくのであった。

 

 

バンコクの夜の繁華街の粘着質な気だるさが、スクリーン一杯にまとまわりつく。

暗い影を背負いながらも颯爽としたナイスガイ・ライアンの姿が、今作には感じられない。圧倒的な力を持つ長兄と実母に抑圧され続け、精神的に「去勢された」次兄役・ジュリアンを閑かに重苦しく演じた。その「悪の象徴」とも言うべきジュリアンの母親であり、マフィアの女ボス・ジェナにクリスティン・スコット・トーマス。妖艶かつ人間的理性が欠如した残虐な女豹〜会話の流れから、この母親は自分の二人の息子を性の道具として扱った節がある〜そんな壊れた中年女を彼女は「気高く」演じる。

 

 

長兄の復讐の為なら、警官殺しも厭わない彼女の前に立ちはだかる男。極悪非道な犯罪者は、連行せずにその場で中国刀で切り刻む謎の元警官・チャン。地元タイ出身の俳優ヴィタヤの無言の演技が、映画全体の不気味さを助長させる。

 

 

どうやって隠しているのか、突然に背中から刀を抜き、悪人を一刀両断。そして次の場面では、高級クラブで美女軍団に囲まれ、無表情にカラオケを唄う。完全無敵の「変なおじさん」なのだ。母親を守る為、素手で一騎打ちに及んだジュリアンも全く歯が立たず、ボロ負け。男前ライアン台無し状態。

 

 

原題「Only God Forgive」から連想されるように、この作品には哲学的、宗教的な薫りが濃厚に漂う。

 

正義の基準とは、悪行を罰するのは何人に拠るべきものか？

復讐の炎に燃える母・ジェナと不屈の斬首人・チャンとの燃え滾る戦いの間で揺れ動くジュリアン。赤と青の原色に彩られた幻惑的な映像と唐突なシーン展開、ラストシーンのジュリアンの不可解な行動と共に、観客は狼狽し、製作者の意図を図りかねてしまう。今作が賛否両論なのもうなずける。

 

小生は狼狽えながらも、途中から極めてシンプルに作品に同化していった。

チャンが「復讐の天使」に喩えられているようだが、日本風に云えば彼は、「桃太郎侍」なのである。

『断じて赦し難し、天に代わって鬼退治いた〜す」と、市井の人々を苦しめる輩を、七面倒な手続き抜きで、バッタバッタと切り刻んで行く。黄門様のように反省の暇も与えませぬ。

唯一、この作品が違うのは、視点が悪人側からなのである。息子を死に追いやった張本人を簡単に処分できると思ったはずが、逆に一歩一歩追いつめられて行く恐怖。その中心にいるのが、悪人達の中でも善心を持つジュリアンという構図なのだ。

 

そうやって観ると、何とも爽快なクライム・アクション　と、思っているのは私だけかもしれない...

今回だけは、流石のライアンも、クリスティンとヴィタヤの圧倒的存在感の前に、完全に脇役に追いやられている。

映像美に酔いしれるが、音楽も結構深いです

 

 

 

 

 
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コメント 4

こんにちは。
気になっているのですけど、あまりにも怖そうで悩み中の作品です。
写真もめちゃくちゃ痛々しいですね^_^;
by non_0101 (2014-02-02 12:23) 

「イングリッシュ・ペイシェント」のヒトですね～　＾＾；　見てみたいわ～♪
“「気高く」演じる” ところ・・・　興味津々です♪
by Labyrinth (2014-02-03 00:52) 

＞ non_0101 様
nonさんの好みには微妙かも...怖いというよりグロいですので(・・;)
でも独特の色彩感の映像は、素晴しいですよ！
by つむじかぜ (2014-02-03 01:29) 

＞ Labyrinth 様
「イングリッシュ〜」とは対極の役柄です。同一俳優とは思えません。
是非、「悪の気高さ」をご覧ください(￣ー+￣)
by つむじかぜ (2014-02-03 01:33)