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「風立ちぬ」〜 宮崎駿を考える 〜 [上映中飲食禁止じゃ!]

 
ようやく、宮崎巨匠の最期の作品を観て来ました。
 
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宮崎駿は『風』の人だ。紺碧の空を駆け巡るのが大好きな人だ。
 
風の谷のナウシカ
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天空の城ラピュタ
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となりのトトロ
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魔女の宅急便
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紅の豚
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千と千尋の神隠し
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 ハウルの動く城
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古来より人間が空を飛ぶ事は『夢』であった。
夢が現実の世界になった今でも、縦横無尽に空を駆け巡るのは、やはり非日常であり、常に「浪漫」がつきまとう。
そう、人間は羽根を持たないから、自身の力だけでは自由に飛べないから...
 
宮崎駿の描くファンタジーは、人間の奥底に眠る飛翔願望を疑似体験させる事により、子供は子供のままに、すべての大人は子供に戻してしまう魔力を持つ。純真無垢な少年少女達は、胸を奮わせながら「夢の世界」に引き込まれ、陶酔するのであった。 
 
ジブリ作品が空前の大ヒットを連発した時代は、80年代からの約20年間。
日本が、世界に冠たる経済大国として繁栄した頃である。ある意味「お金さえあれば何でも実現できた」時代でもあるからこそ、カネがあっても叶えられない「夢」を見せてくれる宮崎ファンタジーは大いに受けた。
 
そして、失われた10年と東日本大震災。
 
震災直後のインタビューで、「コクリコ坂(企画・脚本)」製作中の宮崎氏は、こう語っていた。
「もう、ファンタジーじゃないでしょ! 今、必要なモノは、みんなが求めているモノは!」
 
「風立ちぬ」は、当然の如くファンタジーではない。
先行きの見えない、夢が持てない現代ニッポンに捧げた彼の最期の作品は、それでも「空を飛ぶ」のである。
 
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しかし、以前の作品のように簡単には飛べないのである。
ひとりの青年設計技師が、ありったけの情熱と弛まぬ努力を持って、鳥のように速く軽やかに飛べる飛行機の開発に取り組む姿を描く。実在の零戦の設計士・堀越次郎の半生記が物語の骨格である。
更に、堀辰雄の小説「風立ちぬ」のエッセンスを抜き出すと共に、宮崎氏自身の実父の人生経験(関東大震災を経験し、前妻を結核で亡くしている)をも重ね合わせる、まさにごちゃ混ぜの極めて個人的趣向の強い作品なのである。
 
この老将・宮崎駿の描く、ある種、独りよがりの世界が、実に美しく心に沁み渡る
巷では、「ファンタジーでないので面白みに欠ける」「子供には解りにくい」「声優のキャスティングが酷い」「喫煙シーンが多過ぎる」・・・などなど、厳しい評価もあるようだが、当然であろう。これは、宮崎翁の私的な映画であり、人間・宮崎駿の総括を描いた作品だからだ。軍事マニアの反戦論者という自己矛盾を抱えた彼が、70歳を超えて自分の歩いて来た道に答えを出したのだ。ゆえに、メッセージ性は薄く後付け、大衆に迎合せず、爺さんの独白フル・スロットル[むかっ(怒り)]
 
引退記者会見で氏は「私は町工場のオヤジですから・・・」などと述べていた。
彼は、決して映画監督もしくはアーチストとして尋常ならざる能力を持っているとは思えない。
彼は、世界に二人といない高度な技術と感性を持った漫画家であり、それを絶え間ない努力によって開花させた職人・アニメーターなのだ[ひらめき] そう、飛行機に取り憑かれた堀越次郎そのものなのだ。
 
主人公の吹込みに僚友・エヴァンゲリオンの庵野秀明を指名したのは「俺の遺志を継ぐのはオマエじゃ」位のノリだったろうし、「煙草のどこが悪い。儂は、こんなに喫っても死なんぞ!」と開き直っているはずだ。
『なにせ、最近富に我が儘になってきた町工場の爺さん』ですから、しょうがないのだ。
 
しかし、この爺さんが、いざペンを持てば、誰にも真似が出来ない職人技を、今でも披露するのである。
 
冒頭の関東大震災のシーン。地が割れ、火風が狂奔する刹那〜魔物の咆哮が不気味に轟く〜惨禍の恐怖をアブストラクトに描いたアニメ史上でも屈指の描写だと思う。背筋が凍った[がく~(落胆した顔)]
 
そして、モネの印象画を想わせる光景とジブリでは珍しい涼やかなキスシーン[揺れるハート]
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眩いばかりの紙飛行機の光跡
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夢と共に砕け散った零戦の残骸
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ジブリのヒロインは毎度、同じ顔立ちなのだが、今作の「奈緒子」の美しさは別格だ。宮崎氏は、元気な女の子と薄幸の美少女の極端な2種類の女性を描くのが得意である。
 
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その「奈緒子」が、横たわりながら彼の手を探し『手をください』と話すシーン。
泣けた[もうやだ~(悲しい顔)] こんな表現は常人には出来ない。
他にも、目から鱗のシーンが続出であり(サバ煮、シベリアまでも[あせあせ(飛び散る汗)])、宮崎氏の職人技に改めて驚嘆するばかりであった。
 
ジブリ=ファンタジーから離れて、真っ直ぐに観なければいけないアニメだ。
「恋も仕事も一生懸命」・・明治〜昭和の日本の繁栄を支えた原動力、いや人間の生き方の王道を直視すればよい[パンチ] 
愛』が一杯詰まった町工場のオヤジの伝説の職人芸を、堪能すればいい[ぴかぴか(新しい)]
 
 
「風」のように颯爽と現場の第一線から去って行った町工場のオヤジ。
いまだ、夢と情熱を持ち続けたままの万年青年は、世間から忘れ去られた頃に、「こんなモンを作っちゃったんだが、見てくれるかぁ〜」と、現れそうな気がしてしようがない[わーい(嬉しい顔)] 
 
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怪しい探麺隊

そう、シベリア!!!
by 怪しい探麺隊 (2013-10-10 00:53) 

Labyrinth

つむじかぜ さんの熱い語り口に また魅せられてしまいましたわ(^^;
でもたぶん劇場鑑賞は叶わないと思われまするが・・・(汗) いずれ別の形で・・・w
by Labyrinth (2013-10-10 16:38) 

coco030705

こんばんは。
やはり偉大な人は謙虚なんでしょうね。「町工場」のオヤジなんて。
つむじかぜさんのレビューを読むとぜひ観なくては!という気になります。
すばらしいレビューですね。
by coco030705 (2013-10-10 18:07) 

つむじかぜ

>怪しい探麺隊様
あのシベリアですよねぇ...子供時代に憧れたあの気持ちが蘇ってきました!
by つむじかぜ (2013-10-10 23:53) 

つむじかぜ

>Labyrinth様
こういう郷愁漂う作品には、オッチャンは、必要以上に嵌ってしまうのです^^
by つむじかぜ (2013-10-11 00:02) 

つむじかぜ

>coco030705様
謙虚だけど身内には意固地なオヤジだと思いますよ〜でも廻りのスタッフも、彼と共に夢を見たいと思わせる魅力を持った凄い親爺だと思います。
by つむじかぜ (2013-10-11 00:06) 

モカ

観に行きたいと思いつつ、なかなか行けません。。
こうやって過去の作品を並べてみると、より期待が高まって観たくなります^^

やっぱり、観に行きたいです♪
by モカ (2013-10-13 10:44) 

non_0101

こんばんは。
大人を泣かせる物語でしたね~
ラストまで魅せてくれる作品でした。
スクリーンで見ることが出来て良かったです☆
by non_0101 (2013-10-13 20:27) 

つむじかぜ

>モカ様
やっぱり素敵な映画はスクリーンで観て欲しいですね^^
頑張って、ご鑑賞を!
by つむじかぜ (2013-10-13 23:45) 

つむじかぜ

>non_0101様
まさに大人の映画でしたね。
沁み渡りました^^
by つむじかぜ (2013-10-13 23:47) 

macinu

全部見ているから観に行かなければ~!!宮崎さまのアニメはメッセージが有るので考えさせられながら楽しめます~(^o^)v
by macinu (2013-10-14 09:36) 

つむじかぜ

>macinu様
過去の作品とは違ったアプローチですが、宮崎駿が作れば全部、宮崎駿に
なっちゃうんですよね^^
by つむじかぜ (2013-10-15 02:29) 

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