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『光のほうへ』 [上映中飲食禁止じゃ!]

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監督・脚本:トマス・ヴィンターベア
プロデューサー:モーテン・カウフマン
脚本:トビアス・リンホルム
原作:ヨナス・T・ペングトソン
撮影:シャルロッテ・ブルース・クリステンセン

キャスト:ヤコブ・セーダーグレン 
ペーター・プラウボー パトリシア・シューマン
モーテン・ローセ


アルコール依存症で育児放棄の母親に代わり、懸命に赤ん坊の面倒を見る幼い2人の兄弟。しかし不幸にも赤ん坊は突然の死を迎えてしまう。兄弟は乳飲み子の弟の死に責任を感じ、心に深い傷を抱えたまま成長していくことに。大人になった兄ニックは、臨時宿泊施設で暮らしていた。最近まで刑務所にいた彼は、別れてしまった恋人アナのことを想いながらも、何もできずにただ体を鍛えるだけの日々。一方、疎遠となっていた弟は幼い息子と2人暮らし。妻を交通事故で亡くし、息子だけが心の支えだった。しかし麻薬と縁が切れず、そのせいで最愛の息子との生活を危険にさらしてしまう。そんな中、母親の死をきっかけに再会する兄弟だったが…。




馴染みの薄いデンマーク映画であるが、なかなか感動的な作品であった[もうやだ~(悲しい顔)]

オープニング。柔らかい陽光がスクリーン一杯に拡がり、白いシーツに横たわる赤ちゃんが天使のような穢れ無き表情を浮かべる。その幼い弟を、澄んだ優しい眼差しで見つめる兄弟。

非常に印象深い清らかな映像から始まるこの作品は、赤ん坊の死によって画面は暗転し、トラウマを抱えた現在の兄弟が過ごす薄汚れたコペンハーゲンの裏の顔を映し出していく。

DV、薬物中毒、性犯罪、Etc.、少年時代に心に深い傷を負った兄弟の生き様を描きながら、現代社会の抱える暗い闇を浮かび上がらせる。社会の闇とは、すなわち人間に巣くう心の闇が生み出すものであり、その心の闇は幼少期の環境によって育まれていく。れらない人間の負の心のDNA

常にやりきれない怒りを内に秘め、他人との関係を上手く築けず暴力でしか表現できない兄・ニックは、生きる希望も目的もなく、体を鍛えるだけの無為な日々を送っていた。
一方、どん底の中でも愛する息子との生活を守る為、必死に足掻く弟が選んだ仕事はヤクの売人。そして本人自身もクスリの魔力から抜け出す事はできない。

その二人の選びようも無い荒んだ人生を別々に描きながら、最後に刑務所内で再会した兄弟は初めて心を通わせるのだが、その時はすでに遅かった....

ニック役双方が素晴しい。クリストファー・ウォーケンをそのまま子供にしたみたいな子役の尖った演技と優しい眼差しが印象的。それ以上に成人してからのヤコブ・セーダーグレンの演技は、「生まれた環境が違ったらきっとナイスガイだったろう」という偉丈夫が自堕落な生活を送る姿を好演。母親から受けたD.V.が染み付き、暴力以外で自分を表現できないという、やるせない怒りをスクリーンに叩き付けてくる。

映像と音楽も魅力的である。鬱屈としたコペンハーゲンの貧民街を、グリーンかぶりの色彩で捉えた映像は、
Radioheadっぽい挿入音楽と見事に調和、北欧ならではの静謐な寒々とした中での蠟燭一本の温もりを表現したような絵画を想わせる。

ラストシーンの教会での弟の葬儀の場面。
聖堂内部に、柔らかい陽光が一杯に満ち満ちていく。オープニングの希望に溢れた色彩に、最期の最期に立ち返る。
以前、弟へのやるせない想いを公衆電話機にぶちまけ傷を負ったニックの右掌は、壊死し、切断されていた。
彼は残った左手で弟の忘れ形見マーティンの手をしっかり握りしめる。
二人の姿は、天から降り注ぐ光のシャワーに浮かび上がるように見えた.....

逃れられない宿命の中で喘ぐ人々の愚かさ・儚さを描きつつ、抜けきれない地獄の中にも微かな光明が誰にでも注がれる事を描いた、哀しみと希望のブレンド具合が絶妙の北欧からの素敵な贈り物である。


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non_0101

こんばんは。
この作品、とても気になっているのですけど、テーマがテーマだけに
観るのに覚悟がいるなと感じています。
もう少し体力が出てきたらチャレンジしてみたいです☆
by non_0101 (2011-06-13 20:51) 

つむじかぜ

>non_0101様
世界的な世相の現れからか、洋画も邦画も、社会の暗部に光を当てながらも、仄かな希望を描く作品が増えているような.....
この作品もその部類ですが、個人的にはおすすめの佳作です☆
by つむじかぜ (2011-06-14 02:13) 

Labyrinth

(^_^)ノこんばんは。
再度拝読させて頂きました。
う~ん つむじかぜ さんの冴え渡った筆致に、いつもながら呻ってしまいました。
確かに“光”は象徴的でしたね。

by Labyrinth (2011-08-26 01:37) 

つむじかぜ

>Labyrinth様
オープニングとエンディングの眩い光線が、非常に印象的でした☆
by つむじかぜ (2011-08-29 09:00) 

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