『冷たい熱帯魚 COLD FISH』 [上映中飲食禁止じゃ!]
監督:園子温
製作:杉原晃史
キャスト:吹越満 でんでん 黒沢あすか 神楽坂恵 梶原ひかり 渡辺哲
脚本:園子温 高橋ヨシキ
音楽:原田智英
「猛毒エンターテイメント」怒濤の2時間半
冷凍食品のみを「チン」しただけの冷え冷えとした家族の夕餉からこの映画は始まる。
小さな熱帯魚屋の主人、社本信幸(吹越満)と後妻の妙子(神楽坂恵)は、一人娘の美津子(梶原ひかり)の万引き事件で呼び出されたスーパーで村田幸雄(でんでん)という男に出会う。
彼の仲裁で無罪放免となった村田家族は、彼の経営する大型熱帯魚店「アマゾン・ゴールド」に招待され、彼の明るく豪快な人柄に魅了されるのであった。
村田とその妻・愛子(黒沢あすか)に説得され、美津子をアマゾン・ゴールドに働かせる事に了解した信幸には、村田夫婦の隠された一面をまだ知る由もなかった・・・
デビュー時の「お笑いスター誕生」での強烈なコメディアンから性格俳優へ見事な転身を遂げたでんでんの面目躍如たるハイテンションな演技が光る。
「嫌われ松子の一生」で中谷美紀のソープランド時代の親友役を演じた黒沢あすかが抜群の色香と存在感を示す。
そして、鄙びた熱帯魚屋の妻でありながらフェロモン出しまくりの神楽坂恵。(巨乳の元グラドルですね)
最強のキャスティングである
或る日、村田に呼び出された信幸は、出資話から一千万円を騙しとった吉田という男を毒殺する場面を目の当たりにする。
娘の命を脅された信幸は、村田夫婦の言われるままに人里離れた空家に死体を運び、そこで気のいい熱帯魚店オーナー夫婦の真の姿を見る事になるのであった。
この辺りから観客の嗜好によって、作品の見方が大きく異なって来るであろう。
村田が妙子を陵辱するシーンを「ニタリ」とする私は、死体解体シーンでも「ほー」と静観できるのであるが、生レバーさえ苦手な我妻なら、絶対×な映画である。(独りで観てて良かったぁ〜)
ただ、その後も続く残虐な場面が時間の経過と共に、観客席からたまに洩れる笑い声。
村田夫婦の善から悪への切り替りが見事過ぎる上に、残酷な会話がウイットに富んでいて、救いようの無いシリアスなドラマのはずが、コメディの要素を孕んでいくという摩訶不思議な雰囲気。
これはまさに本気度200%の俳優陣の熱演と演出の賜物であるといえる。
罪の意識に苛まれながらも、村田の魔力によって彼の僕と化した信幸は、次々と共犯者として手を染めていく。
「おまえは、若い頃の俺にそっくりだ。本当はおまえは悪党だ。今日から俺を父親だと思え。」
うそぶく村田に表面上は逆らいながらも、自分の血が抗えないと感じ始める信幸。
ついに自分の不実や偽善や無力感すべてを吐き出した彼は、眠っていた本能に目覚めてしまう・・・・・
見方によっては、信幸の変身は「スーパーマン」や「スパイダーマン」以上に鮮やかである。爽快である。
残虐シーンの連続に神経麻痺した観客は、最期の血みどろの殺し合いが愉快な「泥んこレスリング」に見えてしまうのである。極限状況の人間という動物が、いかに滑稽な生き物かを描き出す園監督の表現力も異端である。
この物語は、己のみの幸福と欲望の実現の為なら、社会的規範も人としての道徳もかなぐり捨てて突き進む村田夫婦の純粋さと、すべての欲求を自らの内にコンクリート詰めし、それが体外に露出する事を極度に怯えて生活する社本家の偽善を対比する。「こうやれば人間は解き放たれるのよ」と村田夫婦に禁断のボタンを押されてしまった信幸は、最期に幸せの断末魔を挙げて果てるのである。
ラストシーンでの娘・美津子の言葉。「こう来るかい」と最期にニヤリとできるなら、あなたは私共々どうしようもない映画好きか「悪の因子」を深く埋め込まれた人間なはずである。
果たして、人間らしさとは・・・
随所に流れるマーラー交響曲第一番「巨人」が、哀しきされど滑稽な人間の性(さが)を呼び醒ます。激作である。
(^_^)ノ こんばんは。
これ程な映画にはなかなかお目に掛かれないなー と思いますね~
仰るように、とびきりの “激作” でしたね。
奥様のように生理的に受け付けない という方もあって当然!(苦笑)
私は笑っちゃったクチですが、悪の因子の組でしょう (´m`)
TBも、宜しくお願い致します。
by Labyrinth (2011-05-10 01:23)
>Labyrinth様
こちらにまでコメントを戴き、ありがとうございます。
観客に媚びないこんな挑戦的な映画も、たまには愉しいものですね。
何度も見返す勇気はありませんが・・・
by つむじかぜ (2011-05-11 00:43)