「プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命」 [上映中飲食禁止じゃ!]
個人的趣向から絶品
監督:デレク・シアンフランス
撮影:ショーン・ボビット
音楽:マイク・パットン
キャスト
ライアン・ゴズリング ブラッドリー・クーパー エヴァ・メンデス
ベン・メンデルゾーン レイ・リオッタ マハーシャラ・アリ
ディン・デハーン エモリー・コーエン ローズ・バーン
天才ライダーのルーク(ライアン・ゴズリング)は移動遊園地でバイクショーを行う刹那的な日々を送っていたある日、元恋人ロミーナ(エヴァ・メンデス)と再会。彼女がルークとの子どもを内緒で生んでいたことを知ると、二人の生活のためにバイクテクニックを生かして銀行強盗をするようになる。ある日銀行を襲撃したルークは逃走する際、昇進を目指す野心的な新米警官エイヴリー(ブラッドリー・クーパー)に追い込まれるが..(シネマトゥデイより)
夜の遊園地のきらびやかなネオンに浮き上がる男女...冒頭から美しい映像に一気に引き込まれる。
ライアン・ゴズリングの前作『ドライブ』は、男の哀愁溢れるクライム・アクションとして非常に秀逸な作品であった。今作は、それをも凌ぐスピード感と重厚感を持って、主人公ルークの儚い生き様を描ききる。
全身をタトゥーで埋め尽くすバイクに乗るしか能が無い半端者。そんな彼が、行きずりのかつての恋人が自分の子供を産んでいる事を知る。初めて覚える父性〜束の間の家族の暖かさ。しかし、彼には母子を養う術が無い。必然的に、犯罪に手を染める道を選ぶ哀しきライダー。
ライアンは、この無骨な無頼漢を、時にとてつもなく暴力的に、時に雛の羽毛の如く優しく魅せる。社会の底辺でもがき苦しむナイスガイ〜ライアンの面目躍如たる演技だ。
大金を手にし掴んだ幸せも一瞬。ついにルークに破滅の時が訪れる。
時折挿入されるアルヴォ・ポルト「Fratres」の弦の軋みが、観客の不安感を一層駆り立てていく。
壮絶な逃走シーンの末、新米警官エイヴリー(ブラッドリー・クーパー)との邂逅。
緊迫感を維持したまま、そして呆気ない幕切れ...
と、ネタバレはここまでで
ライアン・ゴズリング主演の非常に秀逸なアクションドラマは、実はこの映画の序章にしか過ぎないのである。
中盤は、正義感の塊のようなエイヴリーの苦悩に光を当てる。
不器用な優等生が、徐々に逞しさを身につけると同時に、汚い駆け引きや世渡りを覚えていく姿を、ブラッドリー・クーパーが、ごく自然かつクールに演じる。
この過程が、あまりにも「人間臭く」て私はスクリーンに釘付けとなった。どんな偉人だろうが、正義の人と呼ばれようが、絶対に隠し通したい「嘘」は誰しも持つ。小さな自分の悪行を自身で昇華できねば、大きい善行を成す事が出来ないのが、人間社会の現実であると
ちなみに中盤は、エイヴリーの妻ジェニファー役のローズ・バーンの美貌も何気に見所
そして15年後。
後半は、ルークとエイヴリーの子供達の話である。
厳格な父エイヴリーに反発するように非行に走るお坊ちゃん〜ビル。
ルークの面影を残し父同様に生まれつきのワル〜ジェイソン。
決して会ってはいけない二人の少年が、運命の皮肉か、出会う事になる。
そして、見知らぬ父の過去を知ったジェイソン少年が、ついにルーク親子の人生すべてを変えた張本人、今や司法長官にまで登り詰めたエイヴリーと対峙する。
果たして、二人のとった行動はいかに・・・・
ライアン・ゴズリング、ブラッドリー・クーパーという、今や世界中の女性のハートを「2人占め」するほどの旬の男優の個性を見事に活かしきった演出。感情を揺さぶる挿入音楽
親子2代に亘る、血の成せる宿縁。生まれ落ちた環境の差で決まらざる得ない、人生の勝者と敗者。
緻密な構成と脚本には脱帽である。
お互いに幸せを掴む為、手法は違えど必死に戦った二人の父親。ひとりは子への想いを残しまま無惨に散り去り、ひとりは悔恨の情を胸に秘めたまま生き抜く。時間の経過にも微動だにしない不変の二人の父親の生き様を、正攻法でフイルムに焼き写し、「人生の不可思議さ」と「偉大なる父の姿」を観る者に問いてくる。
「お天道様に恥ずかしい生き方をしちゃぁ、いけないよ」とは、よく言ったものだが...
そんな綺麗事ではなく、悪行だろうが善行だろうが、必死に生きる親の後ろ姿を見せるのが、子供達の血肉になるのではなかろうか、と。
ほとんど話題に登らないマイナー作品の位置づけだが、これは個人的に「大好きな本物映画の1本」となった。
単なるクライム・アクションではない 崇高なる「父の物語」である
嗚呼、なんて清々しいラストシーンなんだ
初夏の涼風が「人生って素敵!」と耳元で囁いた