SSブログ

「オーバー・フェンス」 [上映中飲食禁止じゃ!]

邦画なら、公開前から評判の「怒り」より、やはりこちらの作品を真っ先に観たくなる...
ヒット作の蔭に隠れた秀作である[exclamation×2] 
 
poster_front.jpg
 
これまで好きなように生きて来た白岩(オダギリジョー)は妻にも見放され、東京から生まれ故郷の函館に舞い戻る。彼は実家に顔を見せることもなく、職業訓練校に通学しながら失業保険で生活していた。ただ漫然と毎日を過ごしてしていた白岩は、仲間の代島(松田翔太)の誘いで入ったキャバクラで変わり者のホステス聡(蒼井優)と出会い……。(シネマトゥデイより) 
 
「そこのみにて光り輝く(2014年)」の強烈な余韻が今でも胸に残る。絶望的な哀しみの中で生き続ける市井の人々の微かな希望に、そっと陽を当てた佐藤泰志の原作。上映館が限定されながら、2014年度の映画賞を総なめしたが、呉美保から山下順弘に監督が替わった今作も、佐藤文学のエッセンスが活かされた傑作に位置付けられるであろう。
 
完成度の高さは、主役を演じたふたりの俳優の演技力抜きには語れない。
 
CqR5LVQUAAAEmnB.jpg
 
ただ生きているだけの男...
本人に自覚は無くても社会の枠組みの中で、「仕事人間」として生きてきた白岩。いつしか妻の心は壊れ、家庭を棄てる道を選び、東京から故郷・函館に帰る。一から出直すつもりで、職業訓練学校に通い始め、専門技術を学んではいるが、具体的な将来設計など何も無い。昼は漫然と学校に通い、夜は殺風景な自室から函館湾を眺めながら、コンビニ弁当を缶ビールで腹に流し込む無為な日々が続く。別れた妻子への愛惜を断ち切ったと自分に言い聞かせるが、やりきれぬ想いに常につきまとわれる。
なんとも煮えきらぬ情けない男をオダギリジョーが好演。2枚目顔ながら好感度が大きく分かれる俳優だが、今作ではトレーマークの個性的な髪型とヒゲが、だらしなさを増幅させる効果につながっている。
 
この自堕落なバツイチ男が、場末のキャバクラ嬢に惚れられる。ときおり奇行に走り、巷では「ヤリマン」女と揶揄される女性の一途な恋心に、白岩は胡散臭さを感じつつ、徐々に彼女に惹かれていく。この変人役を蒼井優が熱演を超越した神的演技を披露した。
 
「そこのみにて...」の池脇千鶴も凄かったが、今作の蒼井優は桁外れ[ぴかぴか(新しい)] 
236202.jpg 
「花とアリス(2004年)」で性格俳優の片鱗を見せ、
 2cafcb58a7beed9fee1f0f7b99289352.jpg
「フラガール(2006年)」の熱演で皆を感動の渦に包んだ
 K0000055__MG_2825[W555-].JPG
 
多様な役柄に挑戦する為、あえて作品を選ばないような膨大なTV・映画出演作の中には駄作も多いが、この20代での豊富な経験が、30歳を迎え、大女優の仲間入りとなった最大の要因であろう。一時、中途半端にお美しく[あせあせ(飛び散る汗)]なられて、絶世の美女に仕立てられる役柄が多く、「全く似合っていない」と小生は憤慨もしたが、やはり彼女は、プロフェッショナルな「性格俳優」 なのだ。
 
情緒不安定、いきずりの男で寂しさを埋めつつ、どこかで「本物」を求めている。昼間の仕事は、遊園地の切符切り。実は、地味で真面目な彼女が、白岩との本気の恋に目覚めた時、迷うことなく真っ直ぐにオンナをさらけ出し、男に向かってくる迫力。一方で、自分を過度に穢れたモノと思い込み、突然に台所で行水し、取り憑かれたように体の汚れを落とそうとする壊れかけた女。この難しいキャラクターを、観客に違和感無く見せる彼女の演技力の高さ、というより役柄に完全同化する底知れぬ能力に驚かされる。聡のお得意のモノマネである不恰好な「鳥の求愛ダンス」を、これほど美しく、哀しく演じる女優は稀有だ[ぴかぴか(新しい)]
 
松田翔太、北村有起哉、満島真之介、松澤匠ら脇役陣が、皆ひと癖もふた癖もある白岩の学校仲間を好演。一番の年長者を演じた鈴木常吉。何と無く見覚えがあったが、「イカ天」で3周勝ち抜いたセメントミキサーズのヴォーカルだったとは、ちとビックリ[exclamation×2] 世代は違えど、それぞれ事情を抱えて職業訓練学校に通う彼らの一面をサラリと垣間見せるバランス感溢れる演出が見事である。巨乳アイドルからバラドル、志村けんの愛人かと思いきや大河ドラマに出演と、一歩づつ演技派女優の道を進む優香も、白岩の別れた妻役で存在感を示した。 
 
 20160325-overfence.jpg
 
生きる目的を失った者たち。されど生き続けねばならない現実。ただ流れる虚しい日々。
そんな中で見つけた生きる喜びの小さな愛の灯り。もしかすると感違いかもしれない。簡単に消えてしまうかもしれない。白岩と聡の恋の道のりは、この先も険しいに違いない。お互いを傷つけあい、更に悲惨な結末を迎えるだろう。だが、二人を包む煌めきは神々しく、この一瞬は何にも遮られる事はない。「今を生きる」素晴らしさを高らかに謳った、非常に純度の高い作品であり、自然と身体が温まる気がした。
 
音響も函館弁も心に響く
「学校の外にはな、おまえが思っているより色んな人間がいるんだよ。」・・・鈴木常吉爺談 
哀しくも胸踊る素晴らしき人間賛歌〜溢れる魂の映画です[exclamation×2]
 
 
 

nice!(43)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:映画

nice! 43

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

クラゲ達とバレエ「怒り」 ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。