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「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」 [上映中飲食禁止じゃ!]

〜製作者の意思がストレートに伝わってくる、非常に純度の高い秀作である〜
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『恋愛手帖』で第13回アカデミー賞脚色賞にノミネートされ、着実にキャリアを積んできたダルトン・トランボ(ブライアン・クランストン)。しかし、第2次世界大戦後の冷戦下に起きた赤狩りの標的となり、下院非米活動委員会への協力を拒否したことで投獄されてしまう。釈放後、彼は偽名で執筆を続け、『ローマの休日』をはじめ数々の傑作を世に送り出す。(シネマトゥデイより) 
 
国内では、よほどの映画マニアでなければ知らない事実。
名作「ローマの休日」の脚本家イアン・マクレラン・ハンターは名義を貸しただけで、真の作者が別に存在した事を...
 
 
類稀なる才能を持つ売れっ子脚本家トランボであったが、社会主義を支持する活動に加わった為、映画協会から白眼視されていく。時代は米ソ冷戦の真っ只中。民主主義を標榜するアメリカで、自由な言論・思想が弾圧され、「赤狩り」と呼ぶ人権の剥奪が公然と行われていた。多くの文化人・知識人がいわれのない「スパイ容疑」で裁かれた。トランボの周辺も例外でなく、業界の仲間達は職を失い、路頭に迷った。交換条件で活動メンバーの名前を吐き、罪を免れた友人も現れた。「意思の男」トランボは自説を曲げず、ついには、議会侮辱罪で投獄される。出所すれば、事実上の映画界追放の身。彼は、家族を養う為に、友人の名を借り、作品を提供し、更に弱小映画会社に偽名を使い分けて多くの脚本を提供していくのだった。
彼の終わりなき戦いはいつまで続くのか、果たして、名誉を回復する日が来るのであろうか... 
 
まず、トランボ役のブライアン・クランストンがハマり役だ[ぴかぴか(新しい)]
 
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良作の脇役での出演が多く、メガネを外したシーンで、ようやく見覚えのある俳優だと気づくほど、今作の主人公に成りきっている。
 
プライベート・ライアン(1998年)
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ドライブ(2011年)
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アルゴ(2012年)
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 ゴジラ(2014年)
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連続TVドラマ主演作「ブレイキング・バッド」が、多くの賞を総なめし、満を持しての映画初主演。芸達者な名脇役が、還暦にして超遅咲きの大ブレイクという感じなのだ。申し分なしの演技力[パンチ] 偏屈で頑固な天才脚本家の生き様を、まさに自然に演じている。
 
この偏屈親父を支える家族・・・
妻役のダイアン・レインが実に素晴らしい。
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有名女優の割にヒット作に恵まれない不運な女優さんだ。これは、デビュー直後の10代からフランシス・フォード・コッポラ監督の目に止まり、巨匠の作品の常連になりながら、すべて興行的には大コケした呪縛のせいなのか? 
 ランブルフィッシュ(1983年)
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ストリート・オブ・ファイヤー(1984年)
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五十路を超えて、この清潔感とはかない色気の発露は奇跡的だ。アメリカの貞淑清廉妻の鑑のような演技だった[ハートたち(複数ハート)]
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そして長女役のエル・ファニング
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デビュー時から見つめ続けて〜ようやく18歳になりました。天才子役として一斉を風靡した姉のダコタ・ファニングと比べ地味なイメージが先行するが、この「奥ゆかしい」演技傾向は日本人好みかも[揺れるハート] 
 
 アイ・アム・サム(2001年)
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幸せへのキセキ(2011年)
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そういえば、彼女もコッポラ監督に見初められていた...しかもコケた[もうやだ~(悲しい顔)]
ヴァージニア(2011年)
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少々心配だが、まだまだ伸びしろ豊かな小生好みのブロンド女優だ[黒ハート]
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彼らを取り巻く俳優陣もユニークだ。
ヘレン・ミランが「赤狩り」に執念を燃やすコラムニスト
本当に憎々しい素晴らしい演技[exclamation×2] 
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B級映画会社オーナー=ジョン・グッドマン
銭ゲバのくせに作品への造詣が意外に深くて笑います^^
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ジョン・ウエイン=デヴィッド・ジェームズ・エリオット 
アメリカの英雄も今作では不見識かつ頑愚な俳優組合長
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取り憑かれたように創作活動に没頭するトランボ。家族の名誉を守る戦いのはずが、本名を公表できぬ十字架を背負った彼の存在理由を自身で納得させる為の作業に変わり果て、徐々に家族を省みる事を忘れていく。「自分は名を明かせぬ世界一の脚本家だ」と。そんな折に、偽名でマイナー映画会社に供給した作品「黒い牡牛」がアカデミー賞を受賞する。身内だけの祝いの中、彼は、守っていたつもりの家族に、実は支えられていた事に気づく。そして長女が漏らした言葉に父親は愕然となる・・・「本名を公表しても、今、お父さんを邪魔できる人は何処にもいないんじゃない?」 投獄から13年、ダルトンの復帰パーティーでのスピーチは、「誰も非難しない」人道主義に溢れた極めて民主的な内容だった。
 
男の誇りを賭けた飽くなき戦い。
実態は、情けない親父を、暖かく見守り励ます家族のドラマ。
傍目はシリアスさを装いながら、実は情けない男の物語だ...と、主人公と同類の小生は恥じ入った次第なのだが[あせあせ(飛び散る汗)]
 
但し、その背景にあるアメリカの黒い歴史。ソビエト連邦の影に怯え、ヒステリー状態を引き起こした国家は、自家中毒のように思想マイノリティーを傷つける事を愛国心の証とした。核ミサイルの練習に勤しむ隣国や東シナ海を勝手に埋め立てる大国の思想弾圧との違いは、いかほどのものか? 
 
唯一の違いは、「赤狩り」を扇動したマッカーシー上院議員を後年失脚させたような自浄作用が、アメリカ民主主義の底流には存在する。だが、当時のマッカーシズムの協力者としてウォルト・ディズニー、ゲイリー・クーパーそして後の大統領となるリチャード・ニクソンやロナルド・レーガンらの名が連ねられ、まさしく彼らがアメリカ国の本流と成っていったのも、紛れもないアメリカ史なのである。
 
読み解くと、非常に深〜い作品であった[かわいい][かわいい][かわいい] 
 
 
 

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末尾ルコ(アルベール)

『ヴァージニア』はフランスの『カイエ・デュ・シネマ』では高く評価されていますね。同誌が高く評価するような映画は当たらないことが多いのでしょうが。    RUKO
by 末尾ルコ(アルベール) (2016-09-11 06:07) 

つむじかぜ

> 末尾ルコ(アルベール)様
黒澤明の晩年作「夢」を彷彿させる混沌とした映像美でしたね。
確かに、一般受けするには、天才監督の頭の中は複雑過ぎたのか?
by つむじかぜ (2016-09-13 01:16) 

Labyrinth

本当に “読み解くと、非常に深〜い作品” でしたね!?
鑑賞後に拝読致しますと… 
流石 つむじかぜ さん♪  と、感心しきりな私です~ (^_^ゝ
復帰されて良かった~ \(^_^)/

by Labyrinth (2020-04-05 00:11) 

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