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『ダラス・バイヤーズクラブ』 [上映中飲食禁止じゃ!]

 [かわいい]アカデミー賞の本命か大穴か[かわいい]
地味な設定ながら、じわじわと胸が熱くなる傑作[exclamation×2]
 
「死なない事に必死で、生きている実感がないんだ...」
 
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監督:ジャン・マルク・ヴァレ
脚本:クレイグ・ボーテン メリッサ・ウォーラック
 
キャスト:マシュー・マコノヒー ジャレッド・レト ジェニファー・ガーナー スティーヴ・ザーン
 
1985年、電気工でロデオカウボーイのロン・ウッドルーフ(マシュー・マコノヒー)は、HIV陽性と診断され余命が30日だと言い渡される。アメリカに は認可治療薬が少ないことを知った彼は代替薬を探すためメキシコへ向かい、本国への密輸を試みる。偶然出会った性同一性障害でエイズを患うレイヨン(ジャ レッド・レトー)と一緒に、国内未承認の薬を販売する「ダラス・バイヤーズクラブ」を設立するが……。(シネマトゥデイより)
 
実話である。
「後天性免疫不全症候群」・・・『AIDS』。この未知のウィルスが日本に上陸したのが1985年。発症すれば、ほぼ死に至る治療不可能な難病として伝えられた。感染者のほとんどが、同性愛者(ゲイ)か薬物常習者であった事から、「背徳者への天罰」的なイメージが喧伝され、特に当時の日本では、反社会的な一部の人間のみに蔓延する特別の病気という認識が強かった。個人的にも、自分とは無関係の世界の出来事と受け取っていたが、時の経過と共に、異性間感染者が爆発的に増加し、特にショッキングなニュースだった1991年のフレディ・マーキュリーの死去により、一挙に身近な病気になっていった。「不純異性交遊」ゼロとは言い難い独身生活の自覚があった小生は、『まさかの事態』が頭をよぎり、不安に苛まれた日が無かったといえば嘘になる[あせあせ(飛び散る汗)]
 
今作は1985年、日本に先立ってAIDSが蔓延し始めたアメリカが舞台。
酒と女とクスリに溺れ、日々自堕落に生きていた男・ロン・ウッドルーフに、突然、余命30日の宣告が下される。破滅的な生活を送りながらも、「ゲイ」だけは忌み嫌っていた彼は、自分の感染を誤診と決めつけながらも、徐々に身体を蝕まれる症状に平常心を失って行く。知らずに噂が広まり、職場では「ホモ野郎」のレッテルを張られ、親友との信頼も崩れ去る。
 
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図書館に通い詰め、世界中のAIDS情報をかき集めた彼は、遂に自分の感染を覚悟し、病院に延命を頼み込むのだった。彼の頭の中には、世界各国で開発されている「HIV治療薬」の知識に溢れており、当時臨床段階であった「AZT」の処方を頼み込むのであった。しかし、病院側から未承認薬の投与を拒絶され、意味の無い入院を拒否し、病院を後にした彼は、病院事務員を買収し、裏ルートでAZTを入手するのだった。
 
今まで、欲望の成すまま刹那的に生きてきたロンが、直面する「死」に狼狽え怯える姿を、マシュー・マコノヒーが熱演する。命知らずのロデオ・ボーイの女々しいまでの命乞いが、人間という動物の本能を露にしたようで、荒々しいマシューの演技の中に、愛しさと切なさを感じざるを得ない
 
AZTの処方で、症状が落ち着いたかに見えたロンだったが、突如意識を失い緊急入院する。血液検査でAZTの処方がばれ、通常治療を強制される事になる。そして同室の性同一性障害のエイズ患者・レイヨン(ジャレッド・レト)と知り合う。彼(彼女?)は、逆にAZTの臨床試験対象患者だった。実は毒性が強いこの未承認薬は、AIDSウィルスを抑え込むが、患者の健康な器官まで破壊する副作用を持っていたのだ。製薬会社とFDA(米国食品医療品局・・新薬の許認可権を持つ)は、それを知りながら臨床実験を急ぎ一日も早い商品化を狙っていた。もちろん巨額の利権の下で。
 
次第に強い絆で結ばれて行くエイズ患者を演じた二人の俳優。鬼気迫る演技とは、この事を云うべきであろう。
 
こんなナイスガイの男優が...
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これですからね[たらーっ(汗)]
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 しかもジャレッド・レト〜30ポンド[exclamation]
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なんとマシュー・マコノヒー〜50ポンド[exclamation×2]
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驚異的な減量なのである[どんっ(衝撃)](ふたりとも「力石徹」状態だ...古い[あせあせ(飛び散る汗)]
同じくアカデミー賞ノミネート「アメリカン・ハッスル」のクリスチャン・ベールの激太りが話題となったが、小生の経験上、減量の方が遥かに苦しい。食い過ぎで死ぬ事は無いが、絶食は命に関わる。
この二人の役者魂に感服する上に、更に繊細な演技に脱帽なのである。レイヨンが同性愛に興味の無いロンに徐々に恋い焦がれて行く様が普通の乙女以上にいじらしく、その二人の形容し難い信頼関係が見事に描き出されている。そして、自分が死ぬ事を避けるばかりだったロンが、いつしか生きる証に辿り着く過程が、作り物のようなドラマチックではなくごく自然なのである。まさに心情変化を見事に表現したマシュー・マコノヒーの職人芸だ。
 
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病院を抜け出したロンは、メキシコの無免許医師ながらエイズ治療の権威であるヴァスを訪ねる。そこで、AZTの正体を聞かされた彼は、安全なHIV治療薬の斡旋をヴァスに頼み込む。すべてアメリカでは未承認薬であり、違法行為である事を知りながら。
アメリカに戻ったロンは、レイヨンを強制退院させ、二人で密輸した安全な未承認薬の販売組織を立ち上げる。瞬く間に彼らの元には、アメリカ中のエイズ感染者が藁をも掴む思いで集って来る。一攫千金のつもりで始めた商売が、いつしか巨悪と戦う立場となったロンは、利益を度外視して世界中を飛び回り、薬の獲得に躍起となるのであった。しかし、法律の壁は厚く、幾度と強制捜査と未承認薬押収を受け、ダラス・バイヤーズクラブは壊滅寸前となる。
果たしてロンは命を削りながらの戦いに勝利できるのであろうか...
 
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80年代のエイズ発症者の致死率の高さは、特効薬の不在は当然のことながら、新薬の許認可制度の問題もあった。アメリカにおいては、一番の治療薬として推奨されたAZTが、実は患者の死期を早めていた原因であり、その根底には製薬会社・FDA・医学界の癒着が存在した事を、この作品は声高らかに訴えているのだ。
 
「医は算術なり」・・・この元凶は「生き長らえたい」と願う人間の欲望が生み出すものでもある。いや欲望というか本能というべきであろう。医学の進化は停まる事を知らない。飽くなき生への欲求は、医療ビジネスに絡まる天文学的数字の富の転移を呼び、人心の澱みを更に深める事になろう。
 
しかし本作から熱く伝わるのは、守銭奴達への怒りより、ひとりの男の激しい生き様だ。社会の片隅で、自己の快楽のみに身を任せる男。家族も無く、彼を必要とする者は皆無だ。余命を宣告され、ただ本能的に生きる事に執着した男が、その過程で「かけがえのない人々」と出会っていく。そして、いつしか彼自身が多くの人から「かけがえのない人」へ変貌していくのである。人間の生きる価値なんぞ他人が決めるのではなく、自分で昇華するモノだが、それを見出す事に「時間切れ」など無い事を主人公が実証させた。
 
強烈な個性を魅せた俳優陣と小気味好い演出、センス溢れるカメラワーク。レイヨンが焦がれるマーク・ボラン(T・レックス)の挿入曲もイカしている。日本での話題性はイマイチのようだが、アカデミー賞の作品・男優部門を総嘗めしても不思議ではない閑かなる傑作である。
 
余命30日を宣告されたロン・ウッドルーフはその後7年間生存し、アメリカの新薬承認問題に楔を打込んだのである。
 
 
 
 20世紀最強のロック・ヴォーカリストの命漲る雄叫びを[exclamation×2]
 
 
 

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haku

フレディが罹患し、無くなった当時は、本当にショックでした ^^;
by haku (2014-03-02 11:53) 

つむじかぜ

> haku 様
僕らのロック世代には、衝撃的すぎる事件でしたね。
今でも彼のパフォーマンスを観ると、胸が熱くなります。
by つむじかぜ (2014-03-04 21:27) 

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