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『かぐや姫の物語』 [上映中飲食禁止じゃ!]

 
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日本人に生まれた歓びと誇りが身体の奥底から沸き上がる
 
それを体感させてくれた、今後末永く語り継がれる日本映画の傑作のひとつになるであろう。
 
本年3本目の2度鑑賞だ。
製作期間8年、総製作費50億円...エンドクレジットでの膨大なスタッフの数を目にすると、この一大絵巻が、日本中から高畑勳監督の下に集った名もなきクリエイター達の心血を注いだ技巧の結晶を、さらに推敲に推敲を重ねて張り合わせ造り上げた至高の銘品で或る事が窺える。
そして、その仕上がりは、邦画史上最大規模のアニメ作品とは、全く感じさせないごく自然な見せ方なのである。
何の変哲も無い使い古されたお茶碗が、実は器の中に宇宙が見えると謳われた天下に轟く逸品であったような一種の驚きが、この作品にはある。
 
スタジオジブリの主流を成す宮崎駿作品とは、一線を画す作画法である。
濃厚な配色、太い描線、緻密な背景描写とはうってかわって、淡い配色、毛筆のような細線、簡略化された背景を使用した水彩画を彷彿させる絵作りに、一瞬戸惑いながらも、瞬く間に平安の世界へと引き込まれていく。
 
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その簡略化された絵が、森羅万象あらゆる生き物たちの動きを、驚くべきほど緻密かつ柔和に表現されている。
野草の開花、虫の孵化、戯れる動物から、翁が竹を切る動作ひとつとっても、すべてが「自然そのもの」だ。
特に冒頭での、雛人形の如き少女が、あっという間に赤ん坊に変貌する様には鳥肌さえ立った。
 
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この赤子が竹取の翁と妻の元で成長する姿が、愛らしいうえに実際の子供の独特の動きを寸分の狂い無く正確に描写しており、私は20年前の我が子の生まれたての頃を思い出し、懐かしさに胸が熱くなるのであった。天から恵まれた子供を慈しむ老夫婦の気持ちが、昔の自分達にも重なるのである。
これが仮に実写版であれば、ここまでの感情移入はしないだろうし、実際、生の子役での演技は不可能。まさに、滅多に見られない事象をリアルに描くアニメーションの力である。このアニメの力が全編に亘り貫き訴えた「地球上の生きとし生けるものへの賛歌」が、この作品の骨格である。
 
ストーリーは言わずもがな、日本人なら誰でも知る日本最古の物語と伝えられる『竹取物語』を原典としている。
「月から使者がやってくる」件で、ET襲来を彷彿させるSF古典とも呼ばれ、今作品のサブタイトルである「姫の犯した罪と罰」がクローズアップされ過ぎて、謎解き映画として鑑賞する向きもあるようだが、それは邪道であり、もったいない話しである。人それぞれに解釈が異なって構わない。ただ、感じるままに観て欲しい作品だ。
 
月の世界で「禁断の地・地球」に憧れた罪で、不浄の世界に落とされたひとりの女性。そこは閑寂とし永遠の命と心の安寧が保たれる月とは、全く別の世界であった。その地は、限られた「命」達に満ち溢れ、そこに暮らす「人間」に「心・感情」の変容を育んでいく。それは、喜怒哀楽、愛情であり欲望や憎しみでもあるのだ。
 
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成長した「かぐや姫」は、地上の美しきもの、醜きものに触れ、時にこの上ない幸福感に包まれ、時に闇に陥る絶望感に苛まれ、怒り嘆く。
 
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そして、彼女自身も、この地上での「生きる」事の意味をようやく知る。「限りある命」を全うする意味を。
その矢先に、姫は月の世界に連れ返されてしまう。罰として一度は不浄の地に落とされ、今度は愛おしき地上から離される二度目の罰を、かぐや姫は負うのである。
 
劇中に流れるわらべ唄と天女の歌が印象的である。
 
 鳥 虫 けもの 草 木 花
 
   春 夏 秋 冬 連れてこい
  
   鳥 虫 けもの 草 木 花
 
                  人の情けを はぐくみて
 
  まつとしきかば 今かへりこむ
 
作詞・作曲は、高畑監督自身である。
 
すべての地球上の生き物が、季節の移ろいが人間を育んでいく。
そして人間もまた、四季の中で限りある命を精一杯使い尽くすのが自然の理である。
 
一千年前のおとぎ話を題材に、大自然への賛歌と「命在るもの」の使命を、四季を持つ日本人固有の感性の機微を持って描き切った傑作である
私は、春夏秋冬に恵まれ花鳥風月に想いを寄せられるこの国に生まれた事に、この上無い幸せを感じざるを得なかった。
そして、戦中派である高畑勳監督が、東日本大震災を経て、日本人に投げかけたメッセージは、同朋・宮崎駿監督『風たちぬ』と重なる気がしてならないのである。この素晴しき国で「命あるかぎり精一杯生きろ!」と。
 
竹取の翁(さかきのみやつこ)役は地井武男
命ある限り演じ続けた名俳優の遺作ともなった。
 
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現代の日本の若者・子供達が、この作品から感じるモノは、私世代の熟年層とは違うかもしれない。
季節感が年を追う毎に薄れ、山河は遥か遠くとなり、自然動物の営みに触れる機会が極端に減った現代ニッポンで育った子供達は、何から生と死を感じ、学ぶのだろう。
それでも信じている。幾千年の間に、自然を尊び人を慈しむ遺伝子の記憶が、すべての子供達に刻まれ、日本人固有の溢れんばかりの感性が眠っている事を。
 
 
  

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コメント 4

non_0101

すぐに2回目の鑑賞をされたのですね!
心に残る作品でした~
正直、あのシンプルな童話がここまで心を動かす作品になるとは思っていなかったので
なおさらの感動でした。
私も終了までにもう一度観に行きたいです☆
by non_0101 (2013-12-07 22:27) 

coco030705

こんばんは。
まず絵が本当にすばらしいですね。日本の情緒がみごとにこの日本画のような
アニメーションに表現されていると思いました。ぜひ観に行こうと思います。
by coco030705 (2013-12-08 23:11) 

つむじかぜ

> non_0101 様
宮崎監督には申し訳ないが、最近のジブリでは別格の出来です!
「ナウシカ」の感動、再びでした^^
by つむじかぜ (2013-12-10 02:13) 

つむじかぜ

> coco030705 様
多くの人々に観て頂きたい作品です!
by つむじかぜ (2013-12-10 02:14) 

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