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「クロユリ団地」 [上映中飲食禁止じゃ!]


 
監督 中田秀夫 
企画 秋元康
主演 前田敦子
 
 
◎つむじ風的アイドル考
 
AKBには全く興味が無い。
とは云っても、忌み嫌っている訳では無く、無意識の内にメディアに触れているだけで、メンバーの顔と名前が一致するのは、とりあえず片手は超えるであろう中年親爺である。
前田敦子なる者は、そのAKB王国の頂点を極めたトップ・アイドルであり、昨年からグループを卒業し、女優としてソロ活動を展開している。
そもそも彼女がトップを勝ち取った事実自体が理解できず、メンバー中、ビジュアル面ならダントツで小嶋陽菜だし、光る個性なら篠田麻里子、リーダー力なら高橋みなみ、イヤラし度No.1なら板野友美であり、前田に際立つ魅力を感じた事はないのである。
 
そんな彼女をトップに据える演出を仕掛けた秋元康の戦術こそが、AKB成功の秘訣なのではと、感じた。
 
現代のアイドルには、ファンの手の届かない高みで光輝くカリスマは必要では無く、それはかえってファンとの一体感を喪失させる。必要なのは自分と等身大の「彼女」なのだ。
昨日まで隣の席に座っていたクラスメイトが、スターを夢見て東京に出て行く。彼女は長い下積みの後、漸く日の当たる場所に登場する。しかし、次に彼女を待ち受けるのは、グループ内での熾烈な戦いなのである。
人それぞれ好みのタイプは千差万別の中、自分を投影したクラスメイトに声援を送り、それが「総選挙」という大仕掛けな儀式により明確な順位付けが決まるシステム。ファンはその結果に我が事のように一喜一憂するのだ。(こんな単純な仕込みが、社会現象になる事の方が異常なのだが...)
 
日本人は「努力と忍耐」の民族である。 
戦後の復興からジャパン・アズ・ナンバーワンと呼ばれる経済大国に成長したのは、この民族の持つアイデンティティに拠る処が大きい。
 
前田敦子は、きっと『努力の人』に違いない。
恵まれた容姿と溢れんばかりの才能を持った生まれながらのスターが天下を取っても、日本人には支持されないのは明白だ。だから、センターは普通の女の子だが人一倍頑張る「前田敦子」でなければならなかったのではないか。
 
同時に、グループ内での生存競争を目の当たりにするのは、オトナ社会での出世競争や学生の受験戦争を丸写しにしたようなものであり、お気に入りアイドルの優勝劣敗の現実は、即、自分自身に重なるのである。
そして、このファンを巻き込んだ勝ち抜きゲームを、全くの部外者として観戦する立場の者にもまた、デスマッチに興奮する観客の如く、若干の残虐性を孕んだ快感を持って受け入れられているのだ。
 
80年代「オールナイターズ」「おニャン子クラブ」を成功させた秋元康は、素人発掘パターンを更に試行錯誤しながら、90年代つんく「モーニング娘。」の絶頂と凋落を踏み台に、ついに「21世紀日本式アイドルの作り方」を完成させたのだ。
 
...という前提なので、前田見たさではなく、中田秀夫監督久々のホラー映画に惹かれての鑑賞である。
好んで観るジャンルではないが、1998年公開のリング は、やはりジャパン・ホラーの記念碑的作品だと思うからだ。そして、この名作ホラーのヒロインに、映画初主演のモデルあがりの新人女優「松嶋菜々子」が抜擢されていたのが、今回の作品と不思議とダブるのである。 
 
リング_516.jpg 
 
今回の作品は、視覚的な恐怖は皆無に等しい。
ヒタヒタと迫り来る恐怖感よりも、全編を覆い尽くす痛々しいまでの悲しみが観る者に押し寄せる。
昨今の社会問題でもある『孤独死』にも婉曲に触れつつ、不遇な独りの女性の深層心理に深く分け入った作風となっている。巷で喧伝されている「ホラー映画の最高峰」とは全く異質の個性を持つ、New中田ワールドだ。
 
そのヒロイン役の前田敦子。
天賦の才は全く感じられない・・・前述の通り、「努力の人」である。アイドル時代のはち切れんばかりの笑顔を封印し、目に見えぬモノに取り憑かれ、徐々に精神が崩壊する様を必死に演じた。 
蒼褪めたスッピンで呆然とした演技をする彼女を観ていると、敢えて演技力の巧拙は述べる気が失せてしまった。 
 
b5c07e11.png
 
知らぬ間に彼女を応援したい気分になった時点で、完全に「秋元マジック」の術中に嵌りそうな自分を正気に戻す。
 
アイドル・グループを卒業、ソロに転向し、長期に亘り一線で活躍したタレントは幾ばくもない。
個人的趣向から挙げれば...
 
おニャン子クラブ→工藤静香[揺れるハート]
東京パフォーマンス・ドール→篠原涼子[ハートたち(複数ハート)]
ribbon→永作博美[黒ハート] 
 
グループ内での戦いよりも更に熾烈な生存競争に、乙女達は卒業と同時に投げ出されるのである。
 
この「日本式アイドルの作り方」から生まれた何百羽の雛鳥達の中から、10年後にも我々に夢を与え続けられる「タレント」として羽ばたき続けるのは果たして何羽いるのだろうか。
おじさんは、贔屓目なしで、冷静に温かい目で見守りたいと思うのです[ぴかぴか(新しい)]
(まぁ、「総選挙」がいつまで人気を維持したまま続けられるかという少々意地悪な気持ちも持ちつつ...) 
 
※ちなみに、現在放映中NHK「あまちゃん」は、80年代と現在のアイドル事情をものの見事に融合させた、オジサン世代も抱腹絶倒の憎らしいほど巧い脚本です。 
 
◎おまけ
 
この映画に触発されたわけでもないが、
自宅からチャリンコで10分程の「ユリ公園」に行って参りました...with Nex7
 
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さすがに黒百合は無かったけど...
 

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Labyrinth

映画は、ちょっと置いといて・・  (・・*)ゞ
百合独特のかほりが漂ってくるようですねぇ!?
良いところへお住まいで、何よりですね♪ (^^;
by Labyrinth (2013-06-15 01:16) 

つむじかぜ

>Labyrinth 様
映画は置いとかれましたねぇ(・・;)
一面に百合独特の甘い薫りが立込めていました。
名古屋は、自転車圏内で結構愉しめる場所が多いです^^
by つむじかぜ (2013-06-16 00:46) 

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