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『最終目的地』 [上映中飲食禁止じゃ!]

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監督:ジェームズ・アイボリー
脚本:ルース・フラワー・ジャブヴァーラ
原作:ピーター・キャメロン
撮影:ハヴェイル・アギレサロペ
美術:アンドリュー・サンダース
音楽:ホルヘ・ドレクスレル
 
キャスト:アンソニー・ホプキンス ローラ・リニー
シャルロット・ゲンズブール オマー・メトワリー
真田広之 アレキサンドラ・マリア・ララ
 
南米ウルグアイの人里離れた邸宅で、自ら命を絶った作家の妻キャロライン(ローラ・リニー)、作家の愛人アーデン(シャルロット・ゲンズブール)と小さな娘、作家の兄アダム(アンソニー・ホプキンス)とそのパートナーの男性ピート(真田広之)が暮らしていた。孤立し、朽ちかけた屋敷で漂うような暮らしを送る彼らのもとに、突然、アメリカの青年オマー(オマー・メトワリー)が訪ねてくる。青年は亡き作家の伝記を書きたいと申し出るが、キャロラインは執筆を拒む。アダムはオマーに公認を与える代わりに、ある提案を持ちかける。やがて、作家の隠れた著作の存在が浮上する。そして、アーデンとオマーは互いに惹かれ合うようになるが……(goo映画より) 
 
最近、刺激の強い映画鑑賞が続いていたが、久々の文芸作品から爽やかな秋風を送られた心持ちである。
 
原題「The City of Your Final Destination」を、受験生並みに直訳した邦題から何やら肩苦しいイメージがつきまとうが、それぞれの想いを秘めた男女の生き様を、詩情豊かな表現で描いた秀作だ。
ジェームズ・アイボリー監督の出世作眺めのいい部屋 (1986年)』の感動が蘇る[ぴかぴか(新しい)] 
 
南米ウルグアイの光と影を絵画的に切り取るカメラに心奪われる。
見事な内面描写を魅せる各国を代表する俳優陣の妙技にため息をつく。
 
ウルグアイの片田舎の豪邸で、自殺した著名作家の遺族達がひっそりと俗世間から離れた共同生活を送っている。
静かにゆったりと流れる時間。作家の未亡人と元愛人とその娘、作家の実兄とそのゲイのパートナー。微妙な関係である彼らの不思議な調和をもって静かに暮らす姿が、柔らかい映像で描かれていく。莫大な遺産により、何の不自由もなく、作家の菩提を弔うように、漫然と「余生」を過ごす様が窺える。
そこへ、作家の伝記執筆の了解を取る為に、ひとりの青年が訪れる。 静かな湖面に放たれた小石の如く、小さな波紋が遺族達の「余生」に変化をもたらして行く。逆に、功名にはやる青年は、穏やかに暮らす彼らに徐々に影響を受け始める。
 
僅かな滞在時間に、青年オマーと作家の元愛人・アーデルは急接近、密やかに惹かれ合っていくのだが、シャルロット・ゲンズブールが、とにかくいいです[ハートたち(複数ハート)]
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決して絶世の美人ではない四十路のマドモアゼルなのだが、この物語にピッタリの繊細な演技を魅せてくれた。
同居する未亡人に気を遣いながら生活する元愛人。一歩引いた日陰の立場を貫きつつ、他所から来た青年に想いを寄せてしまう難しい役どころだが、持ち前の控えめな色気が「じわっと」炸裂[どんっ(衝撃)] 貧乳具合も個人的にgood[黒ハート]
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青年オマーの恋人でバリバリのキャリアウーマン役・アレキサンドラ・マリア・ララの華やかな色気と好対称を成す。
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アンソニー・ホプキンスの抑えた重厚な演技は言うに及ばずだが、初のゲイ役に挑戦の真田広之も味があった。
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過激な描写も濡れ場も全く無い作品なのだが、一番ドキッ[揺れるハート]としたのは、ホプキンスの傍らで横たわる全裸の真田のシーンだったりする[あせあせ(飛び散る汗)]
 
未亡人役ローラ・リニーの厳かな貫禄、青年役オマー・メトワリーの愚直かつ爽快な演技も含めて、各俳優陣の持ち味が十分発揮され、それが各々の人生観の微妙な変化として美しく浮き上がる極上の仕上がりとなっている。
 
表面的には、真のパートナーと巡り会った二人のラブロマンスなのだが、背景には「人生とは、自分の立ち位置を少し変える勇気を持つだけで、もっと素敵になっていく」という原作のメッセージを、抑揚の少ない映像の中にしっかりと落とし込んでいる。そしてまた、変わり行かない平々坦々たる人生の美しさも同時に見せてくれているのだ。
 
考え抜かれた構図と背景の中に、全く押し付けがましくなく登場人物達の人生をさらりと描く。
ストーリーは淡々と進みながらも、観る者の心を徐々に熱くさせていく。そして、微笑ましいラストシーン。 
 
一冊の小説を、ここまでの映像に昇華させるジェームズ・アイボリー監督の真骨頂。
 
激しい3D映画なんかの合間に観ると、思わず嬉しくなってしまう美しき小品であった[わーい(嬉しい顔)]
 
 

浅草から映画の灯火が今月末に消え、数々の知られざる名作を上映した『銀座テアトルシネマ』も来春には営業停止。
個性的な作品をラインナップする映画館が、時を追う毎に減っていく。
今作も海外では2009年公開。国内お蔵入りにならずに、3年後に何とか公開できたのも、採算を置いて隠れた良作を供給する映画人達の努力の賜物であろう。
文芸作品を多く公開してくれる単館系のシアターに、もっと光を当てなければならない[パンチ]
 

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コメント 7

non_0101

こんばんは。
この作品、気になってます~
落ち着きのある雰囲気がいいですね。
観に行けたらいいなあと思ってます☆
by non_0101 (2012-10-28 22:23) 

Labyrinth

魅力的なメンバーですね♪
いつもながら、つむじかぜ さんの名文にそそられてしまいます ^q^
これも はたして見に行けるのか!? (爆) 
“全裸の真田” 気になる~ぅ(笑)
by Labyrinth (2012-10-29 01:33) 

つむじかぜ

>non_0101様
ゴーギャンの絵を見ている様な気分でした。オススメです!

>Labyrinth様
一瞬ですが色っぽかったですよ。残念ながら局部は隠されていましたが...^^
by つむじかぜ (2012-10-29 02:21) 

haku

古くからの魅力的な映画館がどんどん姿を消してしまいますねぇ
木更津も昔はいっぱい映画館があったんですが、
今はひとつも無くなってしまいました (T_T)
by haku (2012-10-29 08:16) 

つむじかぜ

>haku様
日曜の日経のコラムに、「渋谷シアターN」の閉館を嘆く声が載ってました。
最近の若者は、背伸びして難しい作品を見なくなったとの事。
このままでは、ポップコーン臭いシネコンしか残らなくなっちまう!
映画に限らず、多様な作品を気楽に楽しめるのが、文化的な街だ、と書かれていました。
せめて、オッサン達だけでも盛り上げていきたいものです。

by つむじかぜ (2012-10-30 00:56) 

末尾ルコ(アルベール)

> 単館系のシアターに、もっと光を当てなければならない

同感です。
テクノロジー娯楽に脳をやられた人たちの続出で本物の文化が瀬戸際です。
頑張りましょう!

                          RUKO
by 末尾ルコ(アルベール) (2012-10-30 02:02) 

つむじかぜ

>末尾ルコ(アルベール)様
まさしく! 画一化された文化など、糞喰らえです!!!
by つむじかぜ (2012-10-31 00:29) 

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