SSブログ

『一命』2D版 [上映中飲食禁止じゃ!]

img_204036_6573846_0.jpeg
監督:三池崇史
脚本:山岸きくみ
原作:滝口康彦
製作総指揮:中沢敏昭 ジェレミー・トーマス
撮影:北信康
音楽:坂本龍一
美術:林田裕至
 
出演;市川海老蔵 瑛太 満島ひかり 役所広司
竹中直人 青木崇高 新井浩文 浪岡一喜 笹野高史
中村梅雀 天野義久 平岳大
 
戦国の世は終わり、平和が訪れたかのようにみえた江戸時代初頭、徳川の治世。その下では大名の御家取り潰しが相次ぎ、仕事も家もなくし生活に困った浪人たちの間で“狂言切腹”が流行していた。それは裕福な大名屋敷に押し掛け、庭先で切腹させてほしいと願い出ると、面倒を避けたい屋敷側から職や金銭がもらえるという都合のいいゆすりだった。そんなある日、名門・井伊家の門前に一人の侍が、切腹を願い出た。名は津雲半四郎(市川海老蔵)。家老・斎藤勘解由(役所広司)は、数ヶ月前にも同じように訪ねてきた若浪人・千々岩求女(瑛太)の、狂言切腹の顛末を語り始める。武士の命である刀を売り、竹光に変え、恥も外聞もなく切腹を願い出た若浪人の無様な最期を……。そして半四郎は、驚くべき真実を語り出すのだった……。 
 
今回は三池ワールド生真面目バージョンである。
 
三池崇史・・・ホラーからコメディ、硬派な時代劇まで、B級映画・粗製濫造と批評されようが、おかまいなし。
依頼された仕事はすべて受け、しかも三池独自の拘りを貫いてやり遂げる「必殺映画人」と、私だけは呼ぶ[exclamation×2]
 
前作「忍たま乱太郎」という子供映画でも、「くだらなさ」の中に徹底した生真面目な拘りを潜り込ませ、大人こそ楽しめる極上B級エンターテイメント作品に仕上げた。 
今回の作品は、前作とは対極の「十三人の刺客(2010年)」の延長線上の「シリアス時代劇」である。
昨年の「十三人〜」は、三池氏にしては珍しく大金ぶち込んでの大掛かりな作品で、世間の評価は低くなかったが、私個人としては、彼独特の「毒」の盛り方が中途半端に感じられ、独りよがりの「黒沢映画」へのオマージュ作品の域を出ない評価だった。
 
今作「一命」は、『切腹』(1962年)のリメイクであるが、彼の拘りが十二分に凝縮された力作であり、数ある三池作品の中でも異色の傑作の部類に入る[ぴかぴか(新しい)]
 
市川海老蔵・・・凄い、素晴しい[exclamation][exclamation][exclamation]  
mhollywood_174705.jpg
彼の存在なくして、この作品の成功はあり得なかった。
プライベートではお騒がせこの上ない俳優だが、元々歌舞伎役者なんてものに、まともな人格を期待する方が誤りであって、「芸で人を魅了さえできれば」すべてが許される日本国認定・血統書付き人種なのである。
私の持論(歌舞伎役者に限る)だが、特に「酒・女・博打」は芸人の肥であり、彼らのご乱行を笑って見守る位の余裕が日本人には必要なのだ。その代わりに彼らが素晴しい「魂の贈り物」を舞台で魅せてくれるはずなのだから。
 
井伊家の門を叩いた初老の浪人・半四郎(市川海老蔵)の姿は、薄汚い衣服を纏いながらも燐とした佇まいと風格を感じさせる。この言葉少ない圧倒的な演技に、冒頭から一気に引き込まれる。
半四郎から語られる回想シーン〜福島家改易の経緯と浪人生活、貧しかったが幸せな日々そして筆舌に尽くし難い娘夫婦の悲劇。海老蔵の喜怒哀楽の演技は、決して歌舞伎的手法に陥らずに人間の内面を見事に表現。
最期の大立ち回りで、哀しみと怒りを押し殺し、ゆっくり振りかぶって抜いた「竹光」に、彼の心情を重なり胸が締め付けられる。 
 
この日本伝統芸能を背負ったプリンスに真っ向から立ち向かうのが「叩き上げ雑種系」・元千代田区役所勤務の
役所広司[exclamation×2] 
pickup_cast_03.jpg
武士の誇りと井伊家の面目を守り抜く家老職・斎藤勧解由を圧倒的な存在感で演じた。
左足が不自由な老武士であるが、彼が足を引きづりながら廊下を歩く様は、かつて戦場を駆け巡った「もののふ」であった事を想像させ、左肩を少し落とした座り方に、もの言わぬ威厳と迫力を感じさせる。武士の尊厳を守ろうとすればするほど、戦の無い平和な武家社会のジレンマに苦しみ、半四郎の心情に同調しつつも、それをおくびにも出さず、家の面子に固執せざる得ない侘しい重臣役を、迫真の演技で表現した。
 
この稀代の名優に挟まれて分が悪いのは当然であるが、瑛太満島ひかりも過去の現代劇とは違う抑えた演技で悲劇の若夫婦を好演。瑛太の切腹シーンは天晴だったし、満島は本当に不幸な女性役が似合う。
 
これらの名演技が、俳優陣のポテンシャルの高さあってであるが、三池監督の演技指導と演出によって更に磨き上げられ、至高の時代劇へと構築されていく。
驚く事に今作の三池演出は全く「おちゃらけ」「毒々しさ」無しなのである。 原作の精神性を純粋に抽出し、愚直にスクリーンに焼き付かせる事に終始したようだ。三池特有の際立ったモノが感じられない分、歴史的考証は所作や小物の隅々まで行き届き、淡々と厳かに描く手法が逆に斬新でさえある。そして殺陣は、美しい位自然である。
20111001_1005819.jpg
 
僅かに、井伊家の家紋と赤備えの甲冑を、現実にはあり得ないほど肥大化させ、それが虚飾に満ちた「武士の誇り」のシンボルとして表現する処に、三池氏の遊び心を垣間見た。(今回の最大の「お遊び」は、時代劇初の3D化なのだろうが。)
 
坂本龍一の音楽も、ストーリーと渾然一体となっており、観客の心の抑揚と同化させる事に成功している。
 
「三池監督の毒」を期待し完全に肩すかしに会いながら、想いもよらぬ感動を与えてくれた彼の新境地の拘りが感じられる純度の高い時代劇の傑作である。
 
いつもの深夜の錦糸町映画館での2D観賞だったが、観客は一桁...[ふらふら]
三池監督の戦いはまだまだ続くのである。 
 
 
 
人気ブログランキングへ 

nice!(17)  コメント(5)  トラックバック(1) 

nice! 17

コメント 5

haku

海老蔵さん...
やはり存在感が凄いですね!
by haku (2011-11-15 15:59) 

シラネアオイ

おはようございます。沢山のnice!&コメントありがとうございます。
今は船釣りが主です、年間30~40回ですね、今月一杯眞鰈、12月からはスケソウダラ、サーモン、宗八鰈、春桜の咲くころに眞鰈、7月にはイカと続きます!!
by シラネアオイ (2011-11-16 05:30) 

つむじかぜ

>haku様
更に芸を磨いて私達を楽しませて欲しいですね〜
小林麻央が悲しむようなスキャンダルは当分、封印していただいて☆

>シラネアオイ様
素晴しい環境ですね。東京湾の釣りは、これからはカワハギがメインですね☆
それにしても、これからの北海道の沖釣りの寒さは、想像しただけで恐ろしいですが...
by つむじかぜ (2011-11-17 01:18) 

末尾ルコ(アルベール)

わたしもこの作品はとても楽しみました。
「ヒットしなかった」ということでこき下ろすアホメディアはどうしようもないですね(笑)

                                 RUKO
by 末尾ルコ(アルベール) (2011-11-18 17:10) 

つむじかぜ

>末尾ルコ(アルベール) 様
ご同意頂き、本当にうれしいです^^
今年度日本アカデミー主演男優賞は海老蔵で決まり!って訳にいかないのが
邦画界の哀しき現状ですね。
by つむじかぜ (2011-11-19 02:42) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 1

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。