新春の3冊 [〜老眼はつらい〜]
初春に3冊の歴史小説を読み切った。
若い頃は歴史小説には興味がなかった。
歴史上の人物を描いたところで、その人物の人生は確定されたものであるから、基本的に筋書きが決まっているのである。大人物から人生訓を学ぶだけなら、日経新聞の「私の履歴書」の方がよっぽどリアリティがあって勉強になる。
とにかく、読み初めから結末が想像できるような小説は性に合わぬと決めつけていた。
本当の一番の理由は、少年期に日本史・世界史が大の苦手だった事に尽きるのだが・・(年号憶え大嫌いじゃ)
それが最近、歳のせいか読めるようになってきた。
それでも、偉人伝系よりも、歴史に名を残さぬ者達の話しや、時代背景は昔でも創作力に富んだ小説が中心である。
隆慶一郎・・・恥ずかしながらこの作家を知らなかった。正確に言うと、どこかで聞き覚えのある名だとは思っていた・・・そう漫画『花の慶司』の原作者だ。私は、小説家ではなく単なる漫画専門の原作者だと思い込んでいたのである。隆慶一郎の偉業を讃えるコラムを偶然目にしたことから、手始めに彼のデビュー作を読んでみた。
面白過ぎる
ほぼ史実に基づき、歴史上実在の人物が多く登場するのだが、作者の破天荒な発想力と想像力溢れる構成で、異次元の「心躍る剣豪小説」となっている。
江戸時代。徳川幕府が唯一、公認した遊郭吉原発祥の謎を、家康影武者説(徳川家康は関ヶ原以前に死んでいた)や柳生一族の暗躍を絡め、宮本武蔵の弟子・松永誠一郎(実は天皇家のご落胤)の男の物語として解きほぐしながら描いている。
なんと魅力溢れる登場人物達。時代考証が精緻な上、瑞々しい文体により、目の前にその人物が浮き上がって来る。
主人公・誠一郎のみならず、吉原の総名主・幻斎、花魁・勝山と高尾、柳生宗冬・義仙。おしゃぶと八百比丘尼。きりがない。随所に挿入される和歌や川柳(バレ句)が、色里・吉原を更に艶かしく輝かせる。一方で、緊迫感たっぷりの筆致で描く決闘場面は鮮烈かつ圧巻の迫力。誠一郎と高尾の甘い夜から血煙沸き立つ裏柳生との闘い。
クライマックスである勝山の最期と誠一郎・義仙の決戦、そして誠一郎が覚悟を決めた傀儡舞に至る件は、感動的である。
歴史的事実が骨格ではあるが、その解釈と史実の結びつけが荒唐無稽の大風呂敷。それが決して低次元の歴史フィクションにならないのは、「日本語の美しさ」と「時代背景」を知り尽くした作者の面目躍如たる処か。
このデビュー作は、作者が還暦を過ぎてから書かれた。遅過ぎた新人であり、遅れてきた怪物作家だ。
この作家への興味が突然沸き起こり、勢いもう1冊
ではなくて・・・こちら
「花の慶司」の原作本である。
漫画の方は、以前に3,4冊を喫茶店で読んだ事はあった。
漫画家の原哲夫の代表作といえば「北斗の拳」。
両作とも漢(おとこ)の生き様を描いているが、どうしても慶次がケンシロウと被ってしまい、完全読破するには集中力が持続できなかった。その漫画の原作である。
前田慶次郎〜実在の人物である。
この歴史に埋もれた武将を、隆慶一郎は掘り起こし、独自の創造力で魅力溢れる“漢(おとこ)”として生き返らせた。
「吉原御免状」同様、歴史上の事件に忠実に基づきながらも、慶次郎の行動を飛躍的に逞しく、美しく描き、「こんな事あり得んだろう」という数々の逸話が、さも事実のように錯覚してしまう筆力の素晴しさ
粋で風雅でとにかく強い。「傾奇者」であり、いつもでも少年の純粋さを持ちながら「さむらい」の心根を人一倍持つ。
これじゃ、どんな男も女も馬までも惚れちまうわいという漢(おとこ)なのである。
取り巻く登場人物も魅力たっぷり。慶次郎に男惚れした悪党共、「捨丸・金悟洞・骨」。良妻賢母のイメージをぶち壊した利家の妻・「まつ」の強き美しさ。慶次郎が惚れた男・直江兼続。朝鮮から連れてきた伽姫。
戦闘場面は胸躍る。が、私は「佐渡攻め」での忍びが自分の素性を話す「骨」との会話や、「難波の夢」での死の床にある利家との和解の場面が好きだ。男同士の言葉の中に漢を見る。
「傀儡舞い」では、デビュー作で核となる人物・幻斎を登場させるファン・サービス。
乱世から太平に向かう過度期、ある意味最期の戦国の武士(もののふ)の心意気を清々しく綴った怪作であり、
まさに
奇想天外な歴史小説という事で興味をもった作品を続けて・・・3冊目
海を渡って中世ヨーロッパ・英仏の話し。
これはまたハチャメチャな設定だ
あの「三銃士」で有名なダルタニアンが、英国から仏国に潜入した怪盗団を追う大活劇である。
キリスト社会を崩壊させる古代の秘宝を巡り、西洋の剣術の煌めきのみならず超能力や魔法も飛び出し、敵味方が入り交じっての冒険と友情。
謎の隻眼の東洋剣士と共に、陰謀渦巻く賊の本拠地スコットランドの湖に辿り着いた彼が目にしたモノとは・・・
荒唐無稽な筋書きと強引な設定に、呆れる前に「にたり」とほくそ笑んでしまう。
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