『鷺と雪』北村薫〜ベッキーさんシリーズ完読 [〜老眼はつらい〜]
北村薫の作品に初めて触れたのは盤上の敵 (講談社文庫)である。
緻密な構成と非情な結末に、素直に凄いと思った。
それ以上に、前半部の被害者が猟銃を奪われるシーンの静謐さと緊迫感の描き方が非常に印象に残った。
「今までの私の作風を期待している人は読まないで」みたいな巻頭の作者の言葉が、元々ミステリーファンではない私には、その意味がよく解らなかった。ただ、その後に敢えて彼の作品を追いかけるまでには、到らなかった。
昨年、なんとなく手に取った空飛ぶ馬 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)を読んだ。
これには、はまった こんなミステリーがあるなんて・・・いや、ミステリーと呼んでよいのか・・・
日常の、小さな人間の悪意がもたらした謎を、時に優しく時に残酷に解き明かす「円紫師匠」と女子大生の「私」。
情景描写の品格の高さ。魅力溢れる登場人物達。
読後に同一作者だと知った。なんで女子大生の女心を、このオッサンはこんなに可愛らしく描けるんだ、と。衝撃。「盤上の敵」が彼にとっては異色作である事が判明。
一気に「円紫さんシリーズ」5部作を読破。
自他共に「正子」ファンになりました^^
「赤頭巾」「夜の蝉」がお気に入り
ようやく「ベッキーさんシリーズ」に追いついた時に、『北村薫 直木賞受賞』のニュースに触れるという次第。
「円紫さんシリーズ」同様、女性主人公「花村英子」の1人称。英子が、ぶち当たる謎に対しベッキーさんの協力を得ながら解決していく構成も、円紫さんパターンそのままである。そして、人生の師匠ともいうべきベッキーさんとの交流を通して、主人公が女性として人間として成長する姿を描く点も似ている。
この安心感。まずこれが北村ファンが惹き付けられる魅力なのかと気付く。所謂「水戸黄門」的な展開は日本人の好む処。されど決して単純なハッピーエンドでは終わらない、余韻を残した結末。
前シリーズとの差は、謎解きのロジックが更に複雑になっている事。時代背景が鬱屈とした昭和初期である事。そして、小さな人間の悪意を描く以上に、人間の想いだけでは抗えない、見えざる時代の大きな波を感じさせるロジックになっていることか。
中学生の可憐な少女が徐々に成長し、まさにこれから女の華を咲かせようという時に、時代は戦争という暗い坩堝に向かって突き進んでいく・・・最終章では、英子のこれから降り掛かるであろう人生の苦難を暗示しながら、静かに幕を引いていく。
もうオジサンは、英子が我が娘のように、心配で心配で・・・と、なってしまう訳である。
最終章の「鷺と雪」の終盤は胸に迫るものがある。
「-----善く破るる者は滅びず」「はい、わたくしは、人間の善き知恵を信じます。」
ベッキーさんこと別宮みつ子と桐原勝久との最期の会話。
そして、英子の電話のかけ間違いで「必然的」に繋がった淡い想いを寄せていた若月英明との会話。
騒擾ゆき
3部作の散りばめられた9つの様々な結晶体のような短編が、ここに美しく集結し、ひとつの真っ白な雪の結晶として昇華された。
おまけ
『初冬の北の丸公園』
お粗末でした^^;
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by 藍色 (2013-02-15 15:44)