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四季・ユートピアノ〜マーラー交響曲第四番〜 [超個人的溺愛の逸品]

グスタフ・マーラー生誕150周年だそうだ。

ROCK&JAZZに没頭していた学生時代、クラシック音楽には全く興味を持っていなかった。そんな頃、偶然観たNHKドラマに、かつてない衝撃と感銘を受けた。

『四季・ユートピアノ』 作)佐々木昭一郎  主演)中尾幸世

胸を掻きむしりたくなるような深い哀感と何処までも続く青空のような清々しさ。誰もが心の奥底に仕舞い込んでいる幼児期の音と景色の記憶。佐々木氏が自身の体験を圧倒的な美意識を持って映像化。その再現を一身に担ったのが、主演の中尾幸世。愛する人達が次々と失われていく中で、逞しく慎ましく成長する女性調律師の姿を好演。(こんな不思議な目力と表情を持つ女優を、私は未だに知らない。)また、中尾以外の素人役者のなんとも言い難い演技の空気感。

そして、随所に流れる美しい旋律。


録画し忘れた事を「一生の不覚」と悔やんだが、生涯忘れ得ない映像と旋律はしっかり胸に刻み込んであった。
しかし、挿入曲の題名は分からずじまいだった。

何年後かに、この作品が再放送された。旧式のビデオデッキで録画された作品は私の宝物になった。そして、エンド・クレジットをコマ送りにし、ついに曲名、演奏者も知ることとなった。

マーラー:交響曲第4番 ト長調

マーラー:交響曲第4番 ト長調

  • アーティスト: ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団,マーラー,アバド(クラウディオ),ヘッツェル(ゲルハルト)
  • 出版社/メーカー: ポリドール
  • 発売日: 1994/06/01
  • メディア: CD

私が生まれて初めて自腹で購入したクラシックアルバム(当然LP)となった。

今では、マーラーの全交響曲も知るところだし、四番も他の演奏者のCDを何枚か保有している。が、この「アバドのマーラー四番」だけは、私にとって別格の1枚なのである。世間の評価など問題外。

第一楽章を聴くたびに、鮮烈な映像が脳裏に蘇り、当時の青年期を想い出し、胸が熱くなる。
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第一楽章の抜粋
社会人になり、ビデオ化された作品四季 ユートピアノ [VHS]をすぐさま大人買い。(ここからYouTubeにアップしてみました。)

四季表.jpg
四季.jpg





















上記のLP・CDもビデオも現在は、入手困難。(ユートピアのVHSが中古でなんと45,800円!)

特に佐々木昭一郎氏の作品のほとんどはソフト化されず、数少ない商品化の作品も廃盤である。

日本を代表する至高の映像作家の足跡が、多くの人に知られる事なく消えていくのは、日本文化の損失である。現在「NHKオンデマンド」で試聴可能の作品があるが、是非ともデジタル・リマスターによる全作品のソフト化を願って止まないところである。

最後に佐々木氏の当時の言葉

   私の好きなレコード    佐々木昭一郎

               「ミセス」1981年3月号より

 私が少年の頃、私の家には、古いピアノが一台あった。母のピアノだった。私は、そのピアノを弾きたかった。母は、男の子の私にピアノを弾かせるのを嫌っていた。
 ある冬の夜、突然、上空が真っ赤になった。米軍の照明弾だった。直後にあられのような焼夷弾が、私たちを襲った。私たちは防空壕に避難した。防空壕の人いきれの中で、私は母を見失った。弟も妹も見失った。防空壕の穴から木造の私の家がみるみる紙のように燃え上がり、あっという間にくずれ落ちるのを私は見ていた。私は。くずれ落ちた家の中にピアノが燃えているのを見た。火は鍵盤の上を走り、ピアノはみるみる鉄骨がむき出しになり、続けて私は、ピアノ線が火にはじけ、断ち切られる音を聴いた。ピアノが泣いているような音だった。最後のピアノ線が音を立てて切れたその音は、今でもはっきり私の腹の中に鳴っている。私の家にあった箱型チクオンキも燃えた。ピアノを弾かせてもらえない代り、私は一人でよくチクオンキを聴いた。私の父がフランスから持ち帰って来た古いSP盤を積み重ねて、私はカルーソーの唄、バッハの曲、パッヘルベル、ビゼーなど、あきるほど聴いた。父は毎日の記者で海外特派員だった。SP盤の数々の中でレコードの溝がすり切れるほど聴いた一枚があった。それは、マーラーのシンフォニー第四番だった。特に私は第一楽章の第二主題と第四楽章のソプラノのメロディーを暗誦できるほどくり返し聴いていた。
 ある日、母はすべてのSP盤を捨てた。私はたずねた。母は答えた。敵国の音楽だからと。そして、私の家の中から、父の読んでいた外国の書物すべてが消え、父もいなくなった。
 私は昨年テレビ番組のための世界二大コンクール、イタリア賞と、エミー賞を受賞した自作のドラマ「四季・ユートピアノ」(100分、中尾幸世主演)のテーマに、マーラー第四番を用いた。受賞後、オーストラリア放送協会の人から、まるでマーラーに作曲を依頼した如くの作品だった、おめでとうと電報を頂いた。私が七歳の時に聴いた第四番は
ブルーノ・ワルター指揮だった以外、どこのSPかも思い出せない。私はアバド指揮、ウィーンフィルの一枚を今のところ最も気に入ってている。この曲はG長調だが、私は、ソプラノのメロディーを自己流にアレンジして、A長調として、ヒロインの榮子(中尾幸世)に唄ってもらった。なぜなら「四季」はピアノ調律士の物語で、ピアノ調律の基準音はA(ラ)の音。万国共通に赤ちゃんのうぶ声はAの音程。Aは音の誕生。私は次作(リヴァーズ)“世界の川は音楽”(1)「ドナウ川はヴァイオイリンの音」(八十分)のヒロインもA子の唄にしようと考えている。第四番は、私の中で海へ出て再び還る“川”の如くに鳴り続けている。
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