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『ラスト・チャイルド』 [〜老眼はつらい〜]


ラスト・チャイルド (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1836)

ラスト・チャイルド (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1836)

  • 作者: ジョン・ハート
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2010/04/09
  • メディア: 新書
 海外ミステリーの範疇とは、ほとんど縁がない。というか、元々、外国文学を避けている。美しい日本語の文体への憧れと、翻訳という過程により作家の感性が剥落されているのではないかという勝手な憶測により、ひとりよがりの国文学ファンを永年続けている。老眼の進行により、日を追うごとに、読破数が減っているが・・・

 たまたま先月、観たBS「週刊ブックレビュー」(最近、中江有里に会える確率が低くて残念なのだが)にて、出演者全員が絶賛〜海外ミステリーではあったが、勢いNET注文してしまった。実は昨年あたりから、「北村薫」がマイブームとなり、最近は、超純文学指向からSFミステリー路線に浮気中なのであった。

 一気に読めた。いつも読んでいる日本文学なら、電子辞書は欠かせないのだが、この本はノンストレスである。(このストレスも快感ではあるが)読めない漢字、意味不明の熟語が皆無。ミステリー系らしく、テンポ良く、ぐいぐいと引き込んで来る快感を、久しぶりに味わった。かと云って、安易・稚拙な文章ではなく、作者の持つ情緒性を自然な日本語に表現する翻訳家の感性にも魅力を感じる出来映えである。

 アスファルトが大地を傷痕のように、細長く真っ黒な火傷のように走っていた。(11頁)

 ふたりの肩が一度だけ触れ合った。ハントは電流が走り、青い火花が散るのを感じた。「ありがとう」静けさのなか、ふたりは並んでただじっとすわっていた。彼女は両脚を引き寄せ、両手で膝を抱えると、彼の肩に頭をもたれさせた。ハントは腕に細い腕が押しつけられるのを感じ、冷たい雨が窓を叩く音を聞きながら、彼女の肌のぬくもりを感じていた。「ありがとう」彼女は繰り返した。  ハントは身じろぎひとつせずにすわっていた。 (329頁)

 神の愛の力。 ジョニーはうなずいたが、その目はふたつの棺と、青く晴れ渡った高い空だけを見ていた。  雲ひとつない高い空を。 (448頁)

 巻末の解説で「どのようなぶざまな言葉でも、せつない心がこもっておれば、きっとひとを打つひびきが出るものだ」という太宰治の言葉が引用されていた。まさしく、それを実感する、心に響く小説だった。

 物語は、行方不明の妹を探す少年ジョニーを軸に、それに連なる事件と彼を取り巻く人間・家族の有り様を描きながら進む。読む人間により、感じるテーマの軽重は激しいかもしれない。私は、ジョニーのひたむきな家族への想いに感情移入すると共に、「血の成せる途方も無い力」(神の遣わせたフリーマントルにも繋がる)に思いを馳せた。
 『闇は人間の心に巣くう癌』〜その闇は、どんなに善良な人間も持っている。ただ、病巣が肥大し、自分のその痛みを他人に向けた時、悲劇が生まれる。しかしすべて、『神様はご存知』であり、ひとの『人生は環』なのである。キリスト教義的に深くなると理解不能であるが、私流に云えば「お天道様に恥ずかしい事をしちゃ、いけねぇよ」であり、「この世はすべて因果応報で成り立っておるんじゃ!」である。

 脱線したが、永きに亘り綿々と連なる「ひとの想い」を、優しく美しい文体で綴った名作である。

 ふと、イーストウッド監督で映画化したら、凄い作品になるだろうと思った。

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